2010年08月20日

ギャレス・マローンさんのその他のプロジェクトについて

 本日は、イギリスのカリスマ合唱指揮者、ギャレス・マローンさんの、今回(2010年8月のNHK BS1の再放送)は放映されないプロジェクトについて、一部ご紹介させていただきます。
 
※再放送情報については過去記事のコチラをご参照ください。


 (※ギャレスさん関連のおもな過去記事や、情報URLについておまとめしたページはコチラです。)



 Northolt Phoenix Choirについて

 2005年、ギャレスさんが手がけた最初のプロジェクトです。

(イギリスではすでにDVD化されています【イギリスのDVDは原則日本のプレイヤーでは観られませんのでご注意ください。パソコンなら大丈夫だと思います。】)

 ギャレスさんが、ノースホルトハイスクールというComprehensive school(※1)で、生徒の参加を募って一から合唱団を結成し、オーディションと9ケ月の特訓ののちに、中国での「クワイアオリンピック」に参加するというものでした。

(※1 11歳から18歳の生徒を対象としたイギリスの総合中等学校。能力によって生徒を分けない形式で、現在イギリスの公立中等学校の大部分を占める【ジーニアス英和辞典より】)


(特色1 勝負の世界)

 このプロジェクトの目的は、
「世界的なコンクールに参加する」
ということです。

 このため、「勝ち抜ける合唱団」にならなければならず、まず結成段階でオーディションがあり(男女各約8時間……)、さらに、特訓中に技術面でメンバーにふさわしくないと判断された生徒は脱落し、一方、途中でスカウトされた素質のある生徒が加わったりします。

 このため、その場の人々に、広く歌う喜びを知ってほしいというところがメインだったサウスオキシー合唱団のプロジェクトに比べ、「苦渋の決断」というのが多かったようです。

(今まで一緒に活動していた生徒を落とさなければならなかったりするから。【それにしても、学校の部活の顧問の先生は、よくこういうプレッシャーを引き受けなければならないのですね】)。

 うまくいかないことも多く、さすがのタフなギャレスさんも、「I’m going to go and have a large pint(意訳=【帰る前に】一杯やってきます……※2)」と、頭から煙噴いてる風情で練習場を出て行かれたりしています。


 そのほかにも、諸事情で転校することになっている生徒は、(能力的にはギャレスさんに推されていたのですが)もうこの学校の生徒でないからという理由で参加できなかったり、自ら希望して出て行く生徒がいたりと、ほかの回に比べてシビアなシーンが多いです。

 芸術は人の心を幸せに、豊かにしますが、一方で、そこに勝負がからんだとき、みんながハッピーとはいかないものだということが、このプロジェクトではよくわかります。こと大人数が関わってくる場合は。

 それでも、こういう難しい状況で、ギャレスさんが生徒たちの前で「なぜそうしなければならないか」を説明し、生徒たちも率直に意見を出し合っているシーンなどは、若い人たち相手に限らず、「チームを動かす」という面において学ぶところが多いです。

(※2 pintは液量の単位で約0.568リットル。この場合は「1パイントのビール」の意味に使われています)


(特色2 生徒たちの人間ドラマ)

 この一連のドキュメンタリーを通じて言えることですが、合唱に挑戦する人たちの状況の変化や、成長は大きな見所です。

 個人的にこの回で印象に残ったのは、クロエとイノックという生徒さん。

 クロエはよく通る美しい声をしているのだけれど、あまり練習には熱心ではなく、ほかのメンバーとも距離を置いている感じでした。(歌と反対に、喋る声には人見知りが出て、あまり張りが無い)

 しかし、ギャレスさんが話しかけて彼女に積極的になるように促し、ソロパートを割り振ったり、生徒たちが大きなホールで一人ずつ歌う機会を設けたりしているうちに、徐々に自信と責任感を育て、合唱を通じて大きく変貌していきます。

 再訪の回では、すっかり大人びて、堂々と働いている彼女の姿が見られて、若い人が「誰かすぐれた人に認められ、指導され、チームに必要とされること」が及ぼす影響の大きさを感じさせられます。


 一方、イノックはアフリカから移住してきた少年で、明るく練習熱心。
 
 途中で補欠になってしまいますが、それでも熱意を失いませんでした。

 しかし、彼には、父親がケニアにいて、イギリスへの移住許可がなかなか下りないという事情がありました。

 彼はほんとうにお父さんが大好きだし、母親もお姉さん(同じく合唱団のメンバー)も、お父さんと暮らす日を心待ちにしていて、申請許可の手紙を待ち焦がれています。

 そんな三人の姿からは、家族の、お互いに対する苦しいほどの愛情が伝わってきます。

 この家族に、どんな結果がもたらされるかは、この回がNHKで放映されるかもしれないので(既にされたのではないかと思うのですが、人気シリーズになりつつあるみたいなので再放送を期待して)ここまでにしておきます。


 そのほかにも、晴れの舞台に向けて、自分たちで話し合って決めたデザインの衣装を着て登場する少年少女たちの楽しそうな様子など、それぞれの生徒さん達の表情の変化が魅力的です。

(ちなみに女子はゴージャスな赤い肩出しドレス、男子はゆったりめの黒地に赤い袖のカンフー服【ギャレスさんも同じ←お似合い(笑)】)

 それにしても、サウスオキシー合唱団の方々を観ていても思いましたが、その日のための特別な衣装を着て、人前に立って努力の成果を見せる、という時間というのは楽しそうですね。
 
 プロでなくても、それは人生に彩りを加えてくれると思います。そして、そんな彼らを見守るご家族の感慨深げな表情も、また特別な輝きがあります。


(特色3 ギャレスさんの指導者としての姿)

 さきほどの「頭から煙噴いて一杯やってから帰るギャレスさん」もそうですが、この回では、珍しく「生徒を叱りつけるギャレスさん」が映っています。

 この回は、指導面で色々苦労があったようで(次の回「クワイアボーイズ」も相当大変だったようですが)、
「ちっとも上達していないのに、コンクールの期日は迫る、しかし練習に来ても喋ってる」
 という生徒たちを、彼が怒鳴りつけていました。

 ただし、これは彼が普段からまめに熱心に指導しているからこそ、ごくまれにだけ使えるカードといえるでしょう。

(日常的に大声でドスきかせるには、彼のキャラクターは向いていません。そもそも彼が登場したとき、生徒たちは「……先生……?」と思ったそうですから【あんまり童顔だから】。)


 そして、あとに続いた
「(怒鳴ったのは)君たちの上達のためだ。今勝手に話すことは必要じゃない」
という、生徒たちに自分たちの責任の重さを実感させることばや、その後も、なおまとまりの悪い生徒たちに、今度は週末に一緒にキャンプに行くというアクティビティで結束を高めるなどのフォローがあった点を見逃すべきではないと思います。

(アスレチック場で、生徒に率先して高い柱によじのぼってたりしていらっしゃいました。「人の心をまとめる」って本当に大変だな……)



 確かに、彼はいまやイギリスTV界で非常に注目されている人で、「彼の立場だからできること」もあるのかもしれませんが、このような指導の多様性や、ことば遣いは、一般的にも取り入れられる要素が多いと思います。

 そして、こんなふうにたくさんの苦労を一緒に乗り越えたあと、彼らとの別れを惜しんでひっそりと涙するギャレスさんの姿にも心打たれます。


 BBCアメリカ(※3)のHPにこの回(「Boy’s Don’t Sing」と「Unsung town」も)の紹介文が出ていました。ご覧になりたい方はコチラをクリックしてください。

(※4 アメリカで放映されているイギリスの国営放送【BBC】。ややこしいですが羨ましいです。BBC【というか、イギリスのテレビ】はギャレスさん番組だけでなく、いつも本当に良い番組をやっていますから……【こ、国営放送が……?という内容のもありますが……】)

補足 Gareth Malone Goes to Glyndebourneについて

 2010年6月に放映されたプロジェクトです。

 ギャレスさんが地元の若者を集め、オーディションと特訓の後、オペラ「Knight Crew」に参加するというものだそうです。

 相変わらず好評のようですし、NHKならきっと放映してくれるでしょう。いつになるかはわかりませんが、楽しみに待ちましょう。
 以上です。お役にたてば幸いです。



 ところで、最近、予定外に番組紹介を続けてしまい、一度予告させていただいたミュージカル「ビリーエリオット」の紹介が先延ばしになってしまいました……。

次回こそはこの記事をアップしたいので、よろしければお読みください。

(もっとマメに書かせていただかないと、こういう事態で慌ててしまいますね……【汗】)


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posted by Palum. at 23:13| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする