2010年08月10日

ミュージカル「ビリー エリオット」@ あらすじと原作映画紹介。

(要約文)

今回と次回、二回に分けて、ロンドンのミュージカル「ビリー・エリオット」のために紹介文を書かせていただきます。

 わたしが、イギリスに行くまで、その存在すら知らず、しかし、知ることができて良かった!!と思う作品のひとつです。
 
 (「ビリーエリオット」をふくめ、その他傑作ミュージカルについても、簡単にご紹介させていただいた過去記事はコチラです。※すでに上演終了している作品紹介も含まれています。ご了承ください。)

 これは、同名の名作映画が原作です(邦題は「リトルダンサー)。


 
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※今回はこの映画についての記事になります。あらすじはご存じで、ミュージカルについての情報をご覧になりたいと言う方は、コチラ、ミュージカル「ビリーエリオット」Aロンドン公演をご覧ください。

 サッチャー政権下、炭坑閉鎖反対ストに揺れる町、ダーラムを舞台に、バレエに目覚めた少年、ビリー・エリオットが、ダーラムの混乱と、「男がバレエなんて」という偏見、二つの壁にぶつかりながらも、夢をかなえるため、それに全力で立ち向かうという物語です。

 「階級」という言葉が、今も当たり前のように使われるイギリスの社会矛盾や、意外なほどの、「男らしい男」に対する偏狭な意識が描かれる一方で、それをしのぐ芸術の力と、家族の絆の強さ、同じ町に生きる人々の、ぶっきらぼうだけど確かな優しさが描かれています。

 イギリスのミュージカルの活気ときたら、劇場街に行っただけで、嬉しく圧倒されてめまいがするほどですが、その中で、「最も『イギリス的な物』が観たい」という方には、これをおススメいたします。

 十一歳のビリー・エリオットらを演じる、年若い人々の才能と情熱の輝きは、今もわたしの心に焼き付いています


 
(本文) 

@ あらすじ

 まずは、映画、舞台に共通するあらすじから。

(以下「ややネタバレ」です。大丈夫な方だけお読みください。)

 ビリーは炭坑町ダーラムに暮らす十一歳の少年、母親を亡くし、年老いた祖母の手助けをしながら、ボクシングを習っている。
 
 ビリーの父と兄は炭坑の男で、サッチャー政権が打ち出した炭坑閉鎖政策に 反対し、現在スト中、警官隊とも激しい衝突を繰り返していた。

 ダーラムの炭鉱では仕事があったが、それに参加する労働者は、「スト破りの裏切り者」として、街中から軽蔑されている。

 ある日、ビリーはボクシングと同じ場所でのバレエのレッスンを目にし、それに参加、いつのまにかダンスの虜になる。
 
 しかし、ビリーがボクシングの代わりにバレエを習っていると知った父親は「バレエなど男がやることではない」と激怒する。

 途方に暮れるビリーだったが、すでにビリーの資質を見抜いていた講師、ミセス・ウィルキンソン(ビリーのクラスメートの少女、デビーの母親)は、ビリーにレッスンを続け、ロイヤルバレエスクールを受験するように勧める。

 ビリーの父と兄は、ビリーがバレエをやることを反対し続けるが、あるとき、ビリーのダンスを目にした父は、言葉を失い、その足でミセス・ウィルキンソンの家に向かう。
 
 ビリーの夢をかなえるために、ロイヤルバレエスクールの受験のために、一体いくら必要なのかを知るために。

 その金額は、スト中で収入の途絶えたビリーの家にとって、あまりにも負担が大きく、父はある決意をする……。


 (「ややネタバレ」部、おわり)


A注目ポイント

【1】主人公の性格。

 イギリスの芸能を観ていて印象に残ることのひとつに、少年少女たちの存在感があります。

 エンターテイナーとして非常に技術が高く、演じられる性格にも奥行きがある。
 
 (若き歌手、シャヒーン君をご紹介した過去記事はコチラです。)

 どうもわたしは、「子ども=純真無垢、か弱い、あどけない」的な、やけにざっくりキラキラしたまとめ方には、落ち着かないものを感じてしまうのですが(なぜって、自分は三つやそこいらから、わりと腹黒かった記憶が明確にあるから【←……】)、イギリスの名作に登場する子どもたちは、素直に人として魅力的だと思います。


 それぞれに個性があり、大胆さ、したたかさ、反骨精神や思いやりが、良い意味でくっきりとあらわれる点が、若さゆえの魅力といえるのかもしれません。

 彼らから受ける印象は「カワイイ」というより(もちろん容姿とか声とかに、可愛いと形容される要素もあるのですが)、むしろ「尊敬する」「圧倒される」というほうが適切な気がします。
 
 しかし、わたしは凄い人に圧倒されるのは大好きなので、彼らを観ていると人間や、生きることの可能性を感じ、力づけられます。


この作品の主人公ビリーは、バレエに一途に熱中しながら、家族を気遣い、また親や世の中の理不尽な部分には苛立ちも感じてもいます。

 そして、その苛立ちや熱意を、ことばではなく、踊ることで表すところが、ビリーの若さ、いやそれ以上に「彼らしさ」であり、見る者の心に響きます。


 実はそれぞれにビリーを意識している、友達のマイケルやデビーも、夢に向かうビリーに対する複雑な思い(それはビリーがダーラムを出て行くということにつながるから)をその時々で繊細に見せています。

 これは映画でしか観られませんが、マイケルが、授業中にビリーを後ろから見つめているときの表情など、実に味があります……。恋の目覚めのアンニュイとでもいうのかな……。

 大人の上手な役者さんの演技でも、観たことが無い顔ですが、このときのマイケルの心地には、誰もが覚えがあるはず。一瞬ですがご注目ください。


【2】映画独自の魅力

 ミュージカルの前に、映画をご覧になることをおすすめいたします。やはり筋がわかっていた方が外国語ミュージカルは楽しめますし、二作品の類似点と相違点がそれぞれに面白いので。

 映画を観て印象に残るのは、(ミュージカルより詳しく描かれていて、そこが映画ならではの良さと思われる部分は)以下の三つです。


(以下、「『ややネタバレ』よりさらにネタバレ」部です。【一応ぼかしておりますが】)ご注意ください)

 @炭坑町に生きる家族の葛藤。

 この作品、家族をめぐる名シーンが多いですが、特に映画とミュージカルとで印象が違ったのは、ビリーのダンスを観たあと、息子の夢のために、敢えて男の意地を曲げようとする父と、それを止めようとする兄との、激しいやり取りの場面です。

 家族の愛情、そして、「労働者階級」と呼ばれる人々の、炭坑町で働く誇りと結束、当時の苦しい立場が浮き彫りになり、そのどれもが登場人物たちにとって、振り払うことができない。

 その、どうしようもないやるせなさが伝わってきます。

 もちろんこの場面はミュージカルでも山場なのですが、歌から受ける、せつせつと胸しめつけるような感じとはまた違い、リアルな演技だと、二人のぶつかり合いが、ドカンとダイレクトに心臓にこたえるのです。わたしなど何度観ても、心臓どころか涙腺直撃です。

 そして、この場面では、「ダーラム男としての使命感」に突き動かされて、父親に真っ向から対立するビリーの兄ですが、終盤では、ビリーに対する、家族としての思いを見せる場面も出てきます。

 残念ながら、(わたしが観た2009年時点では)舞台には無いシーンです。映画でしか表現できない情景だからです。そして、とてもうまい、場面としても、兄さんの演技も。

 イギリスの優れた作品に概して言えることなのですが、人の心の温かさが伝わる場面をしっかり盛り込みつつ、その描き方がとてもさらりとしているので、かえって印象に残ります……。

(それにしても、この映画を観ていると、人の表情というものが、どれだけ観る者の心を動かせるものかを痛感します。思いがにじみ出ていて、見ごたえがある。老若男女問わず、みなさん見事な演技者たちです。)




 Aダーラムの風景。

 ダーラムには、労働者たちのために、一斉に建てられたと思われるレンガ造りの家々が並んでいます。

 それは、風景としては味わいがあるのだけれど、そのノスタルジックな色彩は、町の産業の繁栄が、既に過去のものになりかけていることを物語っているかのようです。

 この町を、悲喜こもごもを抱えて、登場人物たちが歩き、走り、あるいは踊って通り過ぎて行く場面は、それぞれに象徴的です。



 B特別出演

 
ある、非常に大切な場面で、ごく一瞬ですが、有名ダンサー、アダム・クーパーが登場します。
(現在、振付師、舞台監督としても活躍。男性が白鳥を踊ったことで話題になった「白鳥の湖」など話題作多数。来日もなさっています)。

 彼の公式HPはコチラ、ウィキペディア記事はコチラです。


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 あの鍛え抜かれた背中、姿勢、跳躍には、純粋に美として目を見張ります。

 この作品で思い知らされたのですが、ほんっとに、性別問わず、バレエダンサーって、ぎょっとするほど美しいです。才能と日々の鍛錬により、たゆまずストイックに磨き上げられた、生きて舞い跳ぶ芸術そのものです。


(「さらにネタバレ」部おわり)


(補足)後日談。

 この映画とミュージカル観て、「バレエとは、バレエダンサーとは、なんと美しいのだろう」と思わされたわたしは、イギリス滞在時、思い切ってロイヤルバレエ団の舞台を観に行ってみました(←すごく影響されやすい人)。

 この舞台については、あまりにもバレエ初心者な私が、うまくお伝えできるとは思えないので省略させていただきますが、それまで観たことの無い、優雅で繊細ながら力強い、「完璧」と言いたいような美しさがあり、また、ロイヤルバレエシアター内部は、ミュージカル鑑賞を通じ、すでに、「ロンドンの、重厚でカッコイー劇場たち」をいくつか目の当たりにしたあとですら、「わあっ!?」と思うほど豪華絢爛でした。
 
 無論、写真不可なのでうろおぼえですが、舞台両端の上方に、大理石らしき、ツヤツヤと大きな馬車の彫刻が、客席に向かって飛び出すような、ド迫力の装飾があったと記憶しております。ああ、びっくりした……。


 さて、そんな初バレエ鑑賞後、
「行ってみて良かった。実にすごい時間だったなあ」
と、思いながら、帰りの電車で、その舞台のパンフレットを見ていたら、隣に座っていらした上品な年配の婦人が、
「あなたもこの舞台に行かれたの?」
と、言いながら、同じパンフレットを見せて、話しかけてきてくださいました。
(イギリスでは、けっこう見ず知らずの人同士が話をしている光景をみかけます。もちろん、フレンドリーのふりして犯罪のスキを狙うというケースも、ままありますから、見極めが難しいのですが【とくに、こちとら外国人ですから……】、場合によっては、偶然となり合わせた人同士が、かなり長時間、和気あいあいと話しこんでいたりします。)


 そのかたは、あくまで控えめにですが、今回の演目や、彼女が良いと思ったダンサーの踊り方について解説してくださり(これもお国柄なのか、たまたまだったのかわかりませんが、イギリスの、とくに中高年の方々は「好きなことについての説明上手」な人が多い気がします。あの話術、実に羨ましい……。)、わたしも超初心者なりに、シドロモドロお話しをさせていただいていたのですが、

「実は、これが初めてのバレエ鑑賞だったのです。『ビリー・エリオット』を観て、ミュージカルもいいけど、バレエも素敵だと思ったので……」
と申し上げたら、
「じゃあ、映画に出てたビリーのお父さんを覚えている?」
 とおっしゃり、
「あのお父さんは、わたしの父にソックリ。本当にあのまんまだったの。『男がバレエなんて!』、『男は男らしく!』って言っていたでしょう」

 ご婦人は、「頑固親父の口調」を真似て笑うだけで、それ以上はおっしゃりませんでしたが、そう語る彼女のようすから、怖いところも、納得いかないところもあったとしても、このご婦人のお父さんも、ビリーの父親みたいに、芯には家族に対する愛情ある、働き者だったのだろうなと思いました。

 あの時のご婦人の、温かい笑顔と優しい声を、「ビリーエリオット」や、初バレエ鑑賞記憶と一緒に、いまでもよく思い出します。

 以上、映画(と個人的体験)のご紹介でした。この映画を基にして、独自の魅力を放つ、ミュージカル版「ビリー・エリオット」と、それにちなんだ動画をご紹介させていただきました。よろしければ、併せてお読みください。


(次回も、早めに更新する予定です。これも、もっと早く公開させていただく予定だったのですが、間に合わず、昨日アクセスしてくださった人の数が、普段よりずっと多く、
「も、もしやわたしが『だいたい三日後』と書いてしまったのを、覚えていてくださっていた方々がいらしたのでは……?」
と、勝手に都合の良い推測をして、恐縮しております。
「(覚えて)ないない」ということでも、そう遠くない未来に更新させていただきますので、よろしければお読みください。)


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posted by Palum. at 22:31| おすすめ映画(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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