2010年06月07日

ルーシー・リー展


(はじめに)

 以前、「テート・セントアイヴス」という記事の中で、少しご紹介したルーシー・リー(陶芸家。第二次大戦直前からイギリスで活動)の展覧会、東京は6月21日(2010年)までとなりました。
(以後各地を巡回します。展覧会概要はコチラ

 彼女の作品はとても魅力的なので、改めてご紹介させていただきます。
 
 ルーシー・リー展の公式HPはコチラ



(ルーシー・リーの作品)

 どことなく朝鮮李朝の器を思わせる、白や薄い緑のシンプルな作品。

 赤、青、黄、緑、ピンクなど、とりどりに豊かな色彩と、焦げ茶やくすんだ金色のしっとりと調和した作品。

 太古の時代のうつわのような、素朴な線や模様のついた、茶色、白などの作品。


 実にさまざまな作品があるのですが、共通しているのは、そのかたちの落ちついたたたずまい。

 ぱっと見、簡素なので、こと色彩が地味なものについては、どこででも手に入りそうかな、と思うのですが、一度、そのフォルムや厚み、肌合いをじっくりと目でなぞると、こちらの心も次第に穏やかに、軽やかになっていく。そういう作品たちです。


 ルーシー・リー展のHPはかなり綿密に彼女の作品を紹介しているので、ぜひご覧ください。(「円熟期」の作品紹介HPはコチラ

 画面越しにも、その華奢さや、ほんのりとよぎる艶、それでいて凛とした気品に魅了されます。

(彼女の作品には、あらゆる賛辞が贈られますが「凛とした」というのは、とくに誰もが思う形容みたいです。)


 以前、セントアイヴス(イギリス南部の町)のテート・ギャラリーで彼女の作品を観たことがあります。
(常設展じゃなかったらしいと気づきました。ラッキーだったなあ……)。


 いわゆるルーシー作品の特徴のひとつでもある「掻き落とし(※1)」だったのか、器の表面に、細い線が放射線状に走ったものの前にきたときのことでした。
 
 少し首をかしげて、観る角度を変えた私の動きに合わせ、照明の下で、その無数の線が、さあっと、光の中の雨のように輝いたのです。

 線の中に走る、柔らかな、ためらいのない力。

 あれ以来、写真を通してでも、彼女の作品を観たとき、わたしは、その、すっきりと細やかに引かれた線に、明るい雨を、器の薄くまろやかなフォルムに、通り過ぎる風を感じるようになりました。

 
 この、自然の息吹に似た気配は、そのまま、確かな技術に裏打ちされた、製作時のルーシー・リーの、もの静かな集中力を思わせます。

 かつてNHK「新日曜美術館『陶器のボタンの贈り物 三宅一生と陶芸家ルーシー・リー』」で紹介されていた、ルーシー・リーの製作風景。

 小柄でチャーミングな銀髪の彼女が、ろくろをまわし、まるで何かと語らっているように、かすかにうなずくようなしぐさをしながら成型し、小さな体が転げ落ちてしまいそうになりながらも、窯に身を乗り出してひとつひとつ作品を取り出していくルーシー。

「窯を開ける時はいつも驚きの連続なのよ(※2)」という陶芸に対する変わらぬ熱意と、みずみずしい感性。

 その穏やかで芯の通った心が、熟練の手を通じて、ひとつ、またひとつとすぐれた器を生み出していったように感じられるのです。


 そんな器をつぶさに(本当に、色、形、線の全てを、じいっと、じいぃっと)見つめていると、「全身是迷いと邪念と鬱屈まみれ」のわたしですら、いつしか雑念が失せて、背筋がすっと伸びる心地がします。
 
 華やかで、燦然と人を魅了する美ではなく、観る者の心を洗い、しなやかな生命力をともす。
 ルーシー・リーの作品にはそんな力があるようです。


(※1)「掻き落とし」……陶器の肌に細い線を引っ掻いて描く技法。
展覧会の「掻き落とし」作品例はコチラ

(※2)ルーシー・リー展公式HP「ルーシー・リーについて」から引用させていただきました。



(補足)ルーシー・リーとデヴィッド・アッテンボロー氏

 「新日曜美術館」で、紹介されていた、ルーシー・リーのうつわ製作風景。

 取材に行かれているのは(NHKの映像ではほんの少ししか観られませんが……)、デヴィッド・アッテンボロー氏です。
 
 
 過去記事「自然番組製作者 デヴィッド・アッテンボロー氏」(さらに続記事はコチラ)に書かせていただきましたが、イギリス人から非常に尊敬されている、素晴らしい御方なんですよ……。

(BBCで彼の特集ページを見つけました。よろしければコチラをクリックなさってください。)


 現在八十代ですが、今も、優れた番組の製作やナレーションでご活躍です。
 
 有能で、知的で、朗らかで、謙虚。ルーシー・リーとは違った意味で「チャーミング」。
 
 基本、お仕事は自然番組にまつわるものなのですが(NHKでは「動物学者」と紹介されています。ちなみにケンブリッジ大卒)、もともと、その他にも多様な番組をお作りになっておいでですし、なによりご本人がルーシー・リー作品のコレクターということで、取材に行かれたようです。


 個人的な思い出話ですが、わたしがイギリス滞在時、最初にきちんと観られたテレビ番組は、このアッテンボロー氏がナレーションなさっているものでした。

 くっきりとして力強く品のある語り口で、初心者にも抜群に聞き取りやすかったですし、なんとなく聞いていると心が落ち着いたから(苦笑)。

 その優れたナレーションと番組群(知人がアッテンボロー氏の番組のファンで、何本かDVDを貸してくれた)、イギリスの人々十人中十二人から伝え聞く

「あの人は本当に素晴らしい人だ」

という噂に、よそながら非常に憧れておりました。


 そうしたら、日本の陶芸に詳しい友人からの、

「イギリスにいるなら、機会があったら、図録ででもルーシー・リーの作品を観るべきだ」

 というメールで、「ダレソレ」と思いつつ、ぽやんと観に行った私の心をしっかり捉えた彼女の作品と、アッテンボロー氏がリンクして、なんとなく嬉しかったです。


 この素晴らしく魅力的な二人が観られる、ルーシー・リーのうつわ製作風景映像が、展覧会で上映されているそうです。

 展覧会に行かれた方は、ぜひルーシー・リーとともに、彼女と対話なさっている男性にもご注目ください。

 イギリスのテレビ界の巨人であり、今も、その知性とお人柄で、人々を魅了し続けている最高の紳士が、彼女と作品への敬愛をこめてお話なさっておいでです。



(さらに補足)

「新日曜美術館」でデザイナーの三宅一生さんが紹介されていた「ルーシー・リーのボタン」(彼のコレクションではないようですが)も展覧会に来ています。

 色も形もとりどりで、とてもきれいで可愛らしいです。ボタンの画像はコチラ

(この「ボタン」にちなんだ記事も、いずれ書かせていただきたいです)

 三宅一生氏が企画・監修、アッテンボロー氏が寄稿されたルーシー・リーの本が発売されています。



ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家

ルゥーシー・リィー 現代イギリス陶芸家

  • 作者: ルゥーシー・リィー
  • 出版社/メーカー: 求龍堂
  • 発売日: 2009/02/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



posted by Palum. at 07:56| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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