2010年04月22日

ロンドンの傘(「刑事コロンボ」)

前回の記事では
「次回はアルベール・カーン氏についてもう少しご紹介させていただきます」
と申し上げたのですが、NHKBSの「刑事コロンボ」の「ロンドンの傘」の放映日が明日(BSハイビジョンで2010年4月23日金曜日22:30〜0:08)に迫ってしまったので、先にこちらを書かせていただきます。

(うっかりチンパンジーですみません……)


@あらすじ

 「ロンドンの傘」はその名の通り、ロンドンが話の舞台。
 
 犯人は、最近人気が落ちているベテランの役者夫婦。ニックとリリー。

 夫婦共謀し、妻リリーが、資産家サー・ロジャー(※「サー」は、この場合、イギリスの身分の高い人につける敬称)に気のあるそぶりを見せて、彼の劇場で公演できるようになります。

 しかし、からくりに気付いたサー・ロジャーは激怒。公演を中止すると言い、いざこざの最中に、夫妻ははずみでサー・ロジャーを殺してしまいます。

 夫妻は、サー・ロジャーの死体を彼の邸宅に運び、事故に見せかけますが、アメリカから視察にきていたコロンボが、彼らの小さなミスから、犯罪を暴いていきます。



A感想

 作品の出来、それ自体としては、コロンボシリーズの中では標準なのですが、とにかくコロンボ(ひいてはアメリカ)の目から見たロンドン(しかも1970年代)、が見られるという意味では、とても興味深いです。

 ただし、登場人物たちのキャラクターが、コロンボ・シリーズの中では結構異色なので、

「大胆にして緻密な犯罪隠蔽工作を遂行する名士たちと、したたかなコロンボとの、静かなる頭脳合戦」

という標準的な構図を期待すると、かなり意外に思われるかと。

 「外国人コロンボが垣間見た、やや善悪の価値基準が一般と異なる人々のシュールな人間ドラマ(40年前のロンドン観光つき)」といったスタンスでご覧になると、しっくりくるのではないでしょうか。


(以下、かなりネタばれなので、気になさらない方だけお読みください。)


B特色

 (1)犯人像

・完全複数犯

 コロンボ・シリーズは、たいてい単独犯で、手を貸す人物がいても、主犯は一人だけというケースが多いのですが、この作品では、犯人二人が、犯罪後の打ち合わせを台詞で綿密にしています。
 
 音楽や、目つきや、小さな仕草で、じりじりとした焦燥や、乾いた冷静さを醸す他作品にくらべると、わりと賑やかな構成といえるかもしれません。

・犯人の性格
 
 よりにもよって、アメリカ以外の人を描く際に、この性格設定にしなくてもと思うのですが、
(イギリス人から見たら、「これが我が国の典型と思われたらどーする!」と結構不服だったのでは)
この二人、コロンボ・シリーズ史上最も、殺害後も平常運転の人々です。  

 サー・ロジャーの死をしおらしく嘆いて見せたかと思うと、夫婦で庭仕事に出るみたいに軽口をたたきながら、悪だくみを進めていきます。

 そして、公演の成功に大はしゃぎ。まるで誰も殺していないかのようです。

 舞台人の、成功への飽くなき渇望というのは、コロンボ内屈指の名作「忘れられたスター」の犯人にも共通しているのですが、この夫婦は、パーティーでチヤホヤされたり、新聞評を読んでご満悦なので、あの作品とはだいぶ味わいが違います。

 彼らが、作品内の公演で演じたのは「マクベス」ですが、このシェークスピアの四大悲劇、主君である王を殺して王位を奪った武将マクベスと、彼をそそのかしたマクベス夫人が、迫りくる良心の呵責と、運命の皮肉によって破滅していくという筋。

(ノックの音におびえるマクベスと、王の血が落ちないという強迫観念に襲われて、夜な夜な手を洗うしぐさをするマクベス夫人のシーンは有名)


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 この舞台の台詞は、事件と重ね合わせるようにして、たびたび登場していますが、この二人が本当に「マクベス」夫婦の、重苦しい罪のおののきを演じられたのかと、疑問に思うほどです。

 少なくともこの二人が、「ガラスの仮面(※)」的に、実体験から演技の真髄を掴んでいくタイプでないことは間違いが無いですね……。
(まあ、犯罪きっかけで真髄掴まれても……とも言えるのですが)

 もう一人、「人が亡くなったというのに、その感覚でいいんですか……?」という人が出てきますが、これはドラマ内でご確認ください。


(※)「ガラスの仮面」……美内すずえさんの少女マンガ。
 幻の名舞台「紅天女」の主役をめぐり、一見平凡ながら天才的な演技力を持つ少女北島マヤと、芸能一家に生まれた美少女姫川亜弓が火花を散らす物語。
 役柄になりきるために、ほとんど命がけの猛特訓をする二人の姿が見どころ。
 

ガラスの仮面 44 (花とゆめCOMICS)

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 (2)「イギリスらしさ」
 
 これが本当のイギリスの典型かどうかはともかく、外国人から見ると、「ぽいな〜」というところが、結構シニカルな部分まで描かれています。


・ロンドン観光 

 カメラを持って駆けずり回るコロンボとともに、兵隊の行進や、タワーブリッジ、警視庁の建物などが登場します。ちょっとした観光映像的。

(排ガスの影響でしょうか。今より黒ずんだ建物が多い気が……)
 
 もちろん、ロンドン、というかイギリスの象徴ともいえる、昔ながらのパブも出てきます。
 
 「刑事コロンボ」ではおなじみの「豪邸訪問」シーンもイギリス調。
重厚な書棚や家具が、特にイギリスの古い邸宅を感じさせます。

(ちなみにこのシーンの執事氏の台詞で、エドガー・ポーの短編にも登場する酒アモンティリャアドが登場します。やっぱり、どうもスゴそうな位置づけなんだな、と学びました【目にしたことすらない】。)


 途中で、ロンドンの刑事部長たちとコロンボが食事をする行きつけのクラブ(夜の飲食店というより、常連が集う高級カフェのようなものらしいです。どうもこの刑事部長は、かなり古い家柄の人の模様)のインテリアも豪勢です。

 こういう凄い内装のレストランやカフェは、今でも結構残っているんですよね。ご注目ください。



・帽子と傘

 警察関係者たちが、黒いシルエット帽を被っています。

 最近は、イギリスでも、帽子をかぶっている人が減りましたが(ハンチングの中高年男性は、今でも地方で多く見かけます。おしゃれですねー)、わたしは帽子支持派です。

 シャーロック・ホームズも、「カサブランカ・ダンディー」や「勝手にしやがれ」の沢田研二氏も、映画「アンタッチャブル」の面々も、帽子をかぶっているおかげで、どことなく品があり、それでいて、つばの影のまなざしが、ミステリアスではないですか。


アンタッチャブル(通常版) [DVD]

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(とか言いつつ、このわたしは、帽子がすげえ似合わないんで、持ってないんですがね……)

 三十代以上の人の帽子文化が、男女問わず、このくらいの日常性で復権してほしいと思います。

(職場に当たり前に被っていけるってのがミソ)

 また、邦題通り(※)、ロンドンの立派な傘が、重要な小道具として登場します。

(原題は「Dagger of the mind」、「心の短刀」と訳せばいいのでしょうか。「Dagger(短刀)」は暗殺の象徴だとか。「マクベス」に登場する武器です。)

 ……が、雨が多いにも関わらず、現代のイギリスの人が傘をさしている姿は、意外と見かけません。

 フードやレインコートでなんとかしてしまうことが多いみたいですね。

 一部イギリス人には、「にわか雨で、傘をさしている人は外国人観光客」という見わけがあるとか無いとか。
(余談ですが、「アジア人はマスクをする」ってのもあるみたいですよ。以前の記事「豚インフルエンザについて」をご参照ください。)

 しかし、一方で、ロンドンには高級な老舗傘店が今でもあり、フンパツする方には良いお土産とされています。

(コロンボも、「傘をお土産にする」といっていますが、彼は乾燥したロサンゼルス在住。一種の笑いどころですね。

【沖縄の人に、ダウンコートお土産にする的な。ああ、そもそも、コロンボがレインコート愛用しているのも矛盾なのですが】)

 ロンドンの老舗傘店では、丁寧な縫製に洒落た布地、美しい木目や、銀の細工の握りなど、ほれぼれするような立派な傘が所狭しと並べられています。

 高級品は、心棒から柄の部分までが一木で継ぎ目が無く、身長に合わせて選ばれ、ある程度体重をかけることも可能という話を聞きました。

 つまり、ロンドンの傘は、かつてはステッキ同様、補助かつ護身の役割を果たし、高級な物の場合、ひとつのステイタスの象徴だったのではないでしょうか?

 大英博物館の側にJames Smith & Sons(←こちらのHPで傘についての蘊蓄も英語で読めます)という有名な老舗傘店があります。

 お値段も品質に正比例しているようですが、店構えも、束になった高級傘のディスプレイも、あたかも「傘の歴史博物館」といった趣ですので、通りすがりに眺めてみるだけでも楽しいです(経験者談)。



(3)イギリス式心臓(?)

 この作品で、個人的に最も印象深かったのは、コロンボが地元の刑事部長や医師とともに、前述した重厚なクラブで話す場面です。

 優雅な軽食が始まると思いきや、医師が、平然と遺体の写真を食事の隣に並べてしまい、コロンボは、極力見ないようにしながら、刑事部長に写真を渡しますが、刑事部長も、これまた平然と見ながら、コロンボに返してしまいます。

 コロンボは、有能ながら血に弱く、死体はおろか、生きている人の傷口を見ても青くなるという繊細さ。
 ドラマ自体も露骨な殺害シーンや死体はほとんど映りません。

 一方、イギリス人の一部の人は、案外そういうの平気です。

(全員ってわけではないので念のため。わたしの知人たちは違いました。)

 刑事部長や医師はプロだからということではなく、ロンドン、ヨーク、エディンバラなどには「○○(都市名)Dungeon(ダンジョン)」なる犯罪博物館兼お化け屋敷みたいなもの(兼ねちゃっていいのか?)があり、人々は恐怖刺激を求め、過去の凶悪犯罪の再現蝋人形なんかを観に行ったりするのです。
(Dungeon=土牢・地下牢)


 わたしは昔「London Dungeon」に行ったことがありますが、
(もっと学術的な場所かと思っていたら、暗闇に蝋人形で人間の闇の歴史の光景が延々と……連れはナイーヴだったので、悪いことをしました。)、切り裂きジャックの犯罪現場を巡るシュミレーションツアーなんてありました。確か遺体の写真も見せられた気が……(怖いので下向いていました)。

(補足:さっき改めてHPチェックしたら、もっと積極的に襲いかかってくるタイプのアトラクションに変わっていました。HPそれ自体が僕的にはもはや無理です。)

 それに、この「ロンドンの傘」に登場する蝋人形館のモデルになっているであろう、観光名所「マダム・タッソー(Madame Tussauds)」にも、有名人たちの蝋人形と記念撮影できる楽しいコーナーの先に、そのような怖い場面の展示などがありました。

 こちらも、動画を観たらもっと手に負えない感じのものになっていました(上記HPをクリックなさるかたはお気をつけてください)。
かえすがえすも時代が……(以下略)。

 日本の場合、実在の事件や人物に関して、滅多なことでは展示はしないし、観光の一環にもならないと思うので、感覚が少し違うと思いました。

 本当にあった話の怖さは、いわゆるお化け屋敷の恐怖と違って、「その場を出ても残る」「申し訳ない気がする」というのが、個人的意見なんですが……。

 そういう、「イギリスの一部の人……気が重くならないのかな……」という疑問が、この一場面に象徴されている気がしたんです。

 ですが、イタリア人の知人いわく、イタリアにも類似した観光名所(?)があるそうなので、べつにイギリスに限った話ではないのかもしれません。

 まあ、今やアメリカだろうがイギリスだろうが日本だろうが、すっかり各国「ショッキング」に目が慣れてしまいましたから、コロンボの感性こそが少数派になりつつあるのかもしれませんが……。


 
 こんなところです。よろしければご覧になる際の一助になさってください。

 最後に、我ながら相当マニアックな余談。

 今回、物語冒頭で登場する、リリー扮するマクベス夫人がつけているネックレス、別の回の「歌声の消えた海」(犯人役はロバート・ボーン)で、被害者のジュエリーボックスからチラっと出てくるのと同じ物のようです。

 是非見比べてくださいとは申しませんが(笑)、どうも、そうらしいと気付いてしまったので一応。

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posted by Palum. at 18:54| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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