2010年02月14日

ギャレス マローンさんの番組から見えたこと。

前回の記事に引き続き、合唱団カリスマ指揮者、ギャレス マローンさんの番組について、書かせていただきます。


あの番組を観ると、音楽や、人の団結の素晴らしさ、ギャレスさんの合唱指導力以外に、ギャレスさんのコミュニケーション技術に舌を巻きます


 彼が合唱団を結成し、動かしていくまでに使っている手法として、
 
 @人々の暮らす環境を下調べする。

 Aその場で、既に一目置かれている人に繰り返し接触し、協力を仰ぐ。
  
 Bお願い事の前にきちんと挨拶、お時間をいただくことについて感謝。
  (相手の返事がどうであろうとも。)
 
 C随所にユーモアを取り込み、チャレンジを楽しむように力づける。

 D技術の高い、別の音楽グループの合唱を皆で観に行き、具体的な目標がイメージできるようにする。
  (特に、あまり乗り気でないメンバーに効果的)

 E指導するグループの中で熱心な人、技術の高い人を数名探し、彼らに指導のアシストを頼む。


 F裏方の人にもきっちり挨拶に行く。
  (発表の際の舞台を組み立てる人たちに、初めと終わりにお礼を言いに行ってらっしゃいました。)


Aについては、男子校での合唱団結成の際に、生徒に尊敬されているラグビー選手のフォアマン先生のところに日参し、拝み倒して「教員合唱団」に参加してもらっていました。

また、サウスオキシーという、それまで文化活動に熱心ではなかった町での合唱団結成の際には、町のボクシングジムで指導している、プロボクサーのマッティさんという男性に協力を仰ぎ、彼と友人たちで男声合唱団を作り、参加してもらっていました。

どうも、イギリスには一部、「男は歌などやらない」というイメージが、かなり根強いようですが、その場の「男の中の男」に参加してもらうことで、偏見を払拭することができるのでしょう。

(前回記事でご紹介したとおり、ウェールズ地方の男性は、肉体労働に従事しつつ、合唱にも熱心な方多いんですけどね……。地方によって違うみたいです。)

マッティさんとコミュニケーションをとるために、
「ひとを殴るのは三十年ぶりだ……(汗)」
といいながら、リングに上がって彼とスパーリング練習をするギャレスさん。

それでも、マッティさんは、音楽がサウスオキシーに果たす役割に懐疑的で、一度は合唱団を離れてしまいます。

しかし、男性メンバー集めに苦戦するギャレスさんに、
「いま、この町で頼れるのはあなたしかいないんです」
と率直に頼まれたとき、それまでのやりとりが実を結び、見解の相違があったにも関わらず、マッティさんは友人を集めて、合唱の練習を開始。

あとのイベントでは、企画の主要メンバーのひとりになっていました。

元々、親分肌で、町を心から愛し、人のために世話を焼けるかたですから、ギャレスさんの熱意に手助けをしようという気になってくれたのでしょう。

音楽とボクシング、方法は違えど、それらを通して住む人たちのプライドを育て、町を活気付けようという気持ちは同じだからです。



他に、ギャレスさんのサウスオキシーでの指導で印象的だったのは、宣伝用CDを作って、その歌声を、合唱団メンバーに聴いてもらっていた場面です。

プロの伴奏のもと、アビー・ロードのスタジオ(ビートルズがレコーディングした場所として、イギリスではあまりにも有名)で録音された自分たちの歌の出来ばえに、合唱団の人たちは感慨無量、涙ぐむ人たちもいました。

サウスオキシーは貧困地区に位置づけられ、周囲の町からは治安面などで偏見をもたれている場所だったようです。

そこに住む町の人たちにとって、合唱団で美しいものを創り出し、こうした話題で町が有名になってゆくことは、とても嬉しいことだったようで、多くの人々が、ギャレスさんに感謝していました。

合唱団の一人は、彼に対し、
「あなたはわたしたちに、歌だけではなく、自信という贈り物も与えてくれました」
とお礼をおっしゃっていました。

(そのことばに、ギャレスさんは、自分はとても「over-emotional person(番組吹き替え訳:涙もろい人間)」なので、と言いながら、感涙を拭っていらっしゃいました。)

「誰にとっても『自分の力』が幸福の源である」

これは、医師でエッセイストの斉藤茂太さんの本にあった文です(※註1)。

ギャレスさんは、音楽を通して、皆の中にある幸福を引き出そうとしているのでしょう。
そして、音楽にはそれができると、誰よりも信じていらっしゃるのでしょう。

だから、たくさんの人が付いていきたいと思うし、マッティさんのような人も協力してくださったのだろうと思いました。


「Animateur」
ギャレスさんは公式HPでご自身の仕事をこのように呼んでいらっしゃいます。

英語の辞書にあることばではなく、ギャレスさんのウィキペディア記事
「presenter and populariser of choral singing」
という文を参照させていただくと、この場合、
「プレゼンター(「司会者」「発表者」)兼、合唱で歌うことの普及者」
というような意味みたいです。

ですが、ギャレスさんの番組を見ていると「animate」ということばの持つ意味を思い出します。

●animate(※動詞の場合)
意味 @……を活気あるものにする、元気付ける。
   A(人・行動)を駆り立てる。
   B……に生命を吹き込む。
    (※もちろん、「……をアニメ化【動画に】する。」の意味もあります。)

《「ジーニアス英和&和英辞典」参照》

音楽は素晴らしい。

しかし音楽に限らず、このように周囲を元気付け、何かをするエネルギーを引き出せる人というのは、素晴らしいなと思いました。


さて、観終わって、この番組から貰った「ジーン……(心温)」を、どう地道に実生活に活かすかを考えたとき。

(ギャレスさんの眼鏡と古風な髪型や服装は、案外現代でもオシャレ、とかいうことにとどまらず。)

わたしはいままで、真面目であれば、人生何事かを成し遂げられるもんだと思っていました。

でも、それはとても大切だけれど、それだけじゃあ難しいと覚えておくべきだと思いました。

(まあ、そもそも、わたしが真面目かといえば、全っ然違うんですが【←「っ」をつけてまで断言かい】。)

彼はすごい才能の持ち主で、キャリアもある。
既に有名人で人気者、テレビカメラもついてきているし、周囲の責任者たちは、彼の全面サポートをする気でいるという強みもある。

ですから、一般の人が、彼みたいに目覚ましい成果を挙げられるとは限らないのですが、それでも、

「こんなに真面目に努力して、正しいことを言っているのに、なぜうまくいかないのだ、みんなわからずやで、青い空も海もバカヤローだ!!(憤)」

と、なりかけたとき、先に挙げたギャレスさんの@〜Fまでのたゆまぬ努力のどれかひとつでも、ヒントにしてみるのもいいのではないかなと思いました。




「真理は、笑いながら語っても真理だ」

太宰治作品の中のことばで(※註2)、名言なのですが、
「音楽は素晴らしい」という真理を伝えるために、ギャレスさんが、奔走しまくっていたのを見て、

「真理でも、それに興味の無い人に、腹の底から共感してもらうのには、根気と工夫が必要だ」

ということにも気づかされました。

それにしても、これ、本当にいい番組なので、地上波ノーカットで、もっと放映してほしいですね……。

音楽に興味が無くても、イギリスの厳しい現実とすばらしさ、ギャレスさんの姿勢から、あらゆる立場の人が、多くのことを学べるはずです。





(※註1)斉藤茂太著「『幸せ』を引き寄せる人」ぶんか社文庫


 精神科医でエッセイストの斉藤茂太(「しげた」とお読みするのですが、愛称モタ先生)が、充実した人生をおくるための秘訣について書かれた本。

モタ先生の本は、豊かな人間関係や、上手な時間の使い方などのコツを、「心」の観点から、わかりやすく解いてくださるものが多いのですが、この本は、人生の達人モタ先生と、ご家族の実人生のエピソードも書かれていて、実用的であるだけでなく、ほのぼのと心温まりました。

いずれもう少しご紹介したいです。英語とノー関係ですが(苦笑)。


(※註2)太宰治「花吹雪」より。(新潮文庫『津軽通信』収録)

「黄村先生」という年配の風変わりな先生に起こった出来事を、若い弟子の「わたし」が書きとめるという構成のユーモア短編小説。

(同シリーズに「黄村先生言行録」、「不審庵」があります。)

「花吹雪」では、男たるもの、どんな立場だろうが腕っぷしは強くあれ!という黄村先生のお説に、珍しく感じ入り、わが身を反省する「わたし」だが(普段の話は半分以上聞き流している)、このお説を実行に移した黄村先生には、とんだ結末が待っているという筋。

『人間失格』で名高い太宰ですが、このような笑える短編も面白いです。



「幸せ」を引き寄せる人 (ぶんか社文庫)

「幸せ」を引き寄せる人 (ぶんか社文庫)

  • 作者: 齋藤 茂太
  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2010/01/07
  • メディア: 文庫





津軽通信 (新潮文庫)

津軽通信 (新潮文庫)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 文庫



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posted by Palum. at 00:20| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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