2009年08月11日

ひさしぶりトランク

ご無沙汰してしまいました。

今週は、きちんと更新させていただきますので、よろしければお読みください。

(画像)夏空
夏.JPG


(要約文)
お盆の里帰りのシーズンなので、わたしが、冬に、日本に里帰りした時の話を、書かせていただきます。

航空運賃の壁、せっかくイギリスにいるのだから、行くならイギリス国内、せめてヨーロッパにするべきではないかという考え。

いろいろあって、海外生活者の里帰りは簡単ではありません。

里帰りするにせよ、しないにせよ、長所短所はあります。これはもう、どの長所をとるかを、自分で吟味するしかないようです。

「帰らないほうがいいのでは」
と、日本の友人に言われたとしても、それは冷たいのではなく、海外経験の貴重さをふまえたアドバイスなのです。

と、いうことを、耳にしてから、納得するまでは、わりと長い時間かかりますが。


(本文)


※今回は、わたしの個人的体験のみで構成された記事です。
なので、なにも、ためになるイギリス情報などは入っておりません(……いつものこと?)。


わたしは、わたしほど、恵まれたイギリス語学留学生活をした人はいないんじゃないかというほど、いい暮らしをさせていただきました。

送り迎えが、運転手つきの電車みたいな長さのピンクのリムジン(※)という意味ではなく、温かなホストファミリー、親切なエージェントのかたにお世話になって、イギリスの良さを満喫できたという意味です。


(※)ロンドンで、生まれてはじめて見て感動しました。あれは中はバスみたいに何個も座席が縦に並んでいるのか、電車みたいに横に長椅子がついているのか、真ん中にテーブルでもあるのか。実にミステリアスですね。
(「のぞかせてください」とも言えないですしね……。)


それでも、やっぱり何ヶ月もイギリスに暮らしていると、
「ああ、日本に帰りたいなあ、家族は、友達はどうしているだろう。あと、お寿司と、ラーメンが恋しいなあ(←いえ、人々と同列というわけではありませんが……)」
と、なります。

イギリスの冬は、
「『イギリスの気候は日本とほぼ同じ』と言った人は、きっと、日本でも、けっこう寒い地方にお住まいの方だな……」
という感じで、わたしには非常に堪えました。

(画像)極寒
 ※白くぼやけているのは、葉にびっしりついた霜です。朝八時過ぎでも溶けていない……。
極寒.JPG


また、日が落ちるのがおそろしく早く、四時には真っ暗で、朝は七時もまだ薄暗く、雨がショボショボ降り続けるし……。

人間も、植物と一緒で、寒くて暗いと、次第にしんなりしてきます。

(まあ、夏の今、そんなこと申し上げても、暑くてギラギラムシムシよりマシだよバーロー、と、わたし自身思いますが)


滞在中、一回は日本に帰っていいことにする、と予算に組み込んでありましたから、今こそ、そのときだろうと思って、帰ろうと思います……と、日本の友人知人に連絡をしました。

自国の日本で、それまでと地続きの現実生活を営んでいる人と、海外に行って、今までとは大きく異なる暮らしをしている人。

同じ、春から冬にかけての数ヶ月が、体感時間は全然違うようです。

里帰りする予定です、と申し上げると、
「どうせ、あと数ヶ月で帰ってくるんだから、飛行機代勿体無いし、そっちにいれば」
というアドバイスを、ひとりならず頂くことになります。

イギリスの暮らしにも慣れて、夏の木漏れ日が眩しくて……。

なんて季節の今は、この友人たちのアドバイスに、一理どころか二理も三理もあったなということがわかります。


あの時期に、イギリス国内じっくり見て回れば、得るものも沢山あったでしょう。

実際、こちらで暮らせるなんて、本当に貴重な経験なわけですから。

ただ、当時は、そのアドバイスに丸々大感謝、は出来ませんでした。

用事があるから帰ります。
と、スッパリ断言すれば良かったのだし、アドバイスいただいたとて、ありがとうございます。でも、必要だから帰るのです、と、サッパリしていれば良かったのですが。

この後、しばらく、ショボショボそぼふる冷たい雨を、窓の向こうに眺めながら、わたしが思い浮かべていたのは、ドラえもんのこの台詞です。

「のび太!懐かしい!!」

「ひさしぶりトランク」という話に出てくる台詞です。

しずかちゃんが、久しぶりに再会した友人と過ごしたいからと、のび太との時間を確保してくれなくなったため、自分も、久しぶりに会った人みたいに、しずかちゃんに大事にされたいと思ったのび太が、ドラえもんにそのトランクを貸してもらいます。

この「ひさしぶりトランク」、トランクを持っている人(あるいは載せた物)は、トランクについた目盛りの期間だけ、相手と隔たっていたことになり、再会を喜んでもらえるという仕組み。

目盛りが「一週間」になったトランクをのび太が手にした途端、機能を説明していた当のドラえもんが、のび太を懐かしがり、効果のほどがわかったので、さっそくしずかちゃんのところへ出かけようと、トランクを持って部屋を出ようとしたら、

「のび太!懐かしい!!」
と、ドラえもんが、また感極まったように、背後からひしと抱きついてくるのです。

あれ持って帰りたい……と、ぼんやり思いましたね(注、とっくにいい大人)。

あのときのわたしなら
「空を自由に飛びたいな」→「ハイ、タケコプター」
より、
「みんなに自分が思うくらい『のび太!懐かしい!!』と思われたいな」→「ハイ、ひさしぶりトランク〜」
だったかもしれません。

いまならタケコプターです。いいお天気だし(いや、どっちみち無理)。


とにかく、わたしの内心の、日本と、故郷の人々に対するひさしぶりトランクの目盛りは、異文化生活を経たため、多分あの時点で「三年」くらいで、皆さんは、年末のお忙しい時期のこと、せいぜい「三ヶ月」くらいだったのかと。


昔、それはそれは可愛らしい名犬と一緒に暮らしていたことがあります(典型的飼い主馬鹿【『親馬鹿』を踏まえた造語】の発想)。

この素晴らしい犬は(もおいい)、わたしが学校行事で数日家を留守にした際、

「ただいま〜!」
と帰ってきたわたしの顔に、全力で鼻から突っ込み、

「ガツーーンッ!!」

「………!!(汗)」

真剣に
「これが、『衝撃で目から星が出る』という現象だな」
と、痛感して、正座して額を床に付けて、クラクラしているわたしの側で、鼻より頭蓋骨のほうが硬いはずなのに、へっちゃらで跳ね回り、

「あぎゃー!!ゴスゴスゴス!!(鼻で、伏せたわたしの顔を、こっち向けと小突いている)」
と、ありあまるほど、再会を喜んでくれたものです。
(いや、鼻で殴られたんじゃないの……?)

あんなには歓迎してもらわなくてもいいけれど(身がもたない)、もうすこしだけ懐かしがってもらえたらな……と、あのときは、ふと思ったものでした。


今、この時期、イギリス暮らし中で、これから日本に里帰りなさるかたも、あるいは、そうした人を日本で迎える人もいらっしゃるかもしれません。

お帰りになるかた
「『のび太!懐かしい!!』を期待していたのに、そうでもない」
と、いうことがあっても、決して、おむくれにならないでください(変な日本語)。

きっと、
「もったいないから帰るの止せば」
と言ってくれる人は

「孟母、断機の教え(※1)」
「獅子の子落とし(※2)」
の気持ちで、あえて言ってくださっているのだと、ありがたく拝聴し、その上で、ご自身の都合と気持ちに沿って、決断すれば良いだけのことです。


(※1)
古代中国の思想家、孟子が、勉強の途中で故郷に帰ってきてしまったとき、母親が、それまで織っていた機(はた)の糸を断ち切って、「勉強を途中でやめるのは、わたしがこの織物の糸を断つようなものだ(勉強で中途半端な態度をとると、全ての努力が水の泡だ)」と戒めたという話。

孟子の母は教育熱心なことで有名で、ほかに、孟子の教育上、良い環境を見つけるまで三回も引っ越したという「孟母三遷の教え」という逸話も残っています。

(※2)「(わが子に)わざと苦労をさせて、能力を厳しく鍛え上げること」という意味。
獅子は我が子を谷底に突き落とし、這い上がってきた子だけを育てるという伝説をふまえている。



自分で決めて帰ったことについて後悔はありません。
本格帰国前にすませておきたかった用事を片付けられましたし、一時帰国ゆえ、日本を外国人のような目で眺められて、なんと美しい国だろうと感動した、とてもいい里帰りでした。

でも、孟母フレンズの教えについて、もっとサワヤカに、ありがとうございますと思えれば良かったなと思うのです。
いざ帰れば、色々と温かく接していただいたのですし。

良薬は口に苦し、厳しめのアドバイスが耳から脳、心の奥底にじんわり届くまでには随分時間がかかるものです。

いまは「里帰り」というと必ず、
「のび太!懐かしい!!」
「愛犬の鼻パンチ」
「孟母断機の教え」
を三点セットで思い出すのです。



(上記二つのことわざの意味については、『スーパー大辞林』を参照させていただきました)

※補足、真顔で言わせていただきますが、「ドラえもん」は大人になればなるほど、奥深さがわかるので、人生のあらゆる側面で思い出します。

そして、こちらに来て、世界中でこの作品が本当に愛されているということも知りました。
複数の国の友人たちから
「あれ、いつも見てました、ドラえもん」
と言っていただきます。


もしかして、
「もう卒業した」
というおつもりなら、ためしに再読なさってみてください。笑えるし、泣けるし、賢い、傑作です。


posted by Palum. at 21:53| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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