2009年07月19日

ウォーターハウス氏の展覧会

ウォーターハウス.JPG
展覧会のパンフレットとポストカード


(要約文)
ロンドンの「Royal Academy of Arts」という美術館では、いま、J.W.Waterhouseという画家の展覧会がやっています。
(二〇〇九年、六月二十七日から九月十三日まで)
豊かな髪と透ける肌、印象的なまなざしの女性たち、緻密な自然描写。
浪漫的なテーマがなんとも美しい。誰がどう見ても美しいです。行く価値ありですよ。


「Royal Academy of Arts」(美術館)のアドレスは下記のとおりです。

http://www.royalacademy.org.uk/


(本文)

ウォーターハウスという方は、「ラファエル前派(※)」と呼ばれる、イギリスの芸術革新運動の流れを汲む画家の一人です。
(※ほか、ロセッティ、ジョン.エヴァレット.ミレーなど【注『落穂拾い』のミレーではありません。わたしはわりと長いこと間違えてましたが】)

ラファエル前派というのは、ルネッサンスの代表画家ラファエル以前の、素朴な芸術に立ち返ろうという主張を持つ芸術家集団だそうですが、詩や神話、物語などを題材にした神秘的な作品が多い、というのが、わたしの勝手なイメージです。

美しい女の人、花や自然、ふしぎな光、
「ほおお、きれいだ……」
と、絵にくわしくない人(=わたし)でも思うものが多いです。

ロマンチックで幻想的な、漫画の絵に慣れている日本人には親しみやすい感じです。

個人的には萩尾望都さんの絵のイメージに重なるものがある。

それにしても、「見習いたくない画家」をチーム名につけなくてもいいんじゃないかと思うんですが。

ところで、私がなぜこの展覧会に行ったかというと、ミュージカル作詞界の巨人、ティム.ライス氏
(傑作ミュージカル『ジーザスクライストスーパースター』、『ライオンキング』などの作詞を手がけた方。)
が、ご自身のコレクションを貸し出し(さすが、風流でいらっしゃる……)、なおかつ、それらの作品について語るというイベントがあったからです。

平たく懺悔すると、わたしはこのウォーターハウスという画家を知りませんでした。
ただ、ひと目、ティム.ライス氏を拝見したかったのです。
(このイベントについては、また改めてご報告させていただきたいと思います。)

とはいえ、
「絵はよく知りません、生ティム氏が観たいだけです。キャーキャー!アンコール×2!(←?)」
というのは、参加する人間の態度として、ちょっとまずいなと思いましたので、
「水家?ダレソレ?」
の段階から、どうにか作品と名前が一致するくらいまでは情報収集しました。

と、申しても、ウィキペディアを読み、展覧会会場でイヤホンガイドを借り、絵に添えられた解説を読んだだけのことですが(泥縄式)。

ところで、その会場、
「絵はお刺身じゃないんだから、そうムキになって冷やさなくても……」
と言いたくなるくらい、冷房がきつく、わたしが辞書をひきひき解説を読み、絵に見とれ……。

と、各作品ごとにやっていると、一部屋見終わるころには、
「さむさむさむ……」
となるので、いったん会場外(売店付近)に出て温まり(……)、またチケットを入り口の職員さんに見せて、というのを四回(確か全五部屋でした)繰り返さねばなりませんでした。

(補足。友人が後日行った際、会場は完全なる適温だったそうです。
やっぱり誰かが『絵はお刺身じゃないんだから』と温度調節を願い出たんでしょう。
【いや、絶対その言い回しは使ってないだろうけれど】)

しかし、そう面倒くさい思いをしてでも、引き寄せられるほど、絵には魅力がありました。

ウォーターハウスの描く女性は、おもに、比較的直線的な額、くっきりと形の良い唇とあごをして、丸い目をじっと見張っているような感じです。肌はふれるとひんやりしていそうな白さ、巻き毛でも直毛でも、髪は目を引くほどに豊か。

デッサンが確かで、どの絵も比較的大きく、女性が等身大に近く、背景の草木などはとてもリアルなので、

「こんなに美しいひとが本当にいるものかな。しかしこの絵の中には、いるように見えるな」

と思わせるだけの迫力があります。


以下、個人的に印象深かった絵についての感想です。

「The Lady of Shallot」

ウォーターハウスの傑作のひとつだそうです。美しい女性が、悲しげに小船で川を下ろうとする姿(画像左をご参照ください)。
詩人テニソンの物語を題材にした作品です。
何らかの呪いで塔から出ることを許されず(この呪いについて、『誰が』『なぜ』ということについては説明がないようです)、
魔法の鏡に映る世界を、タペストリーに織ることだけが許されていた乙女シャーロットが、騎士ランスロットに恋をし、抑え切れない想いのままに、塔を出て彼のもとへ行こうとするという内容だそうです。

塔を出ることは死を意味し、彼女はランスロットに会う前に息絶えます。

熱にうかされたようなせつない表情、小船の鎖を解く手の動き。

大きな絵で、目の前に立つと、川風や、彼女のくちずさむ、かすかな最期の歌声まで感じられるようです。


ウィキペディアで見られる「The Lady of Shallot」の画像のアドレスです。

http://en.wikipedia.org/wiki/File:JWW_TheLadyOfShallot_1888.jpg



「Nymph Finding the Head of Orpheus 」

ギリシャ神話の、竪琴の名手オルフェウスが、悲劇的な死をとげ、川を流れてきた彼の首と竪琴を、妖精の少女たちが見つけるという一場面です。
ティム.ライス氏のコレクションの一枚。

普通に考えたら、川を首が流れてきたなんて、自分が発見者なら寝込むほど恐ろしいですが、あれだけリアルに描いておいて、しんとした静けさと物悲しさが漂うように仕上げた画家は確かにすごい。

澄んだ青い水に髪を解き広げて漂う美しい首と、体をねじるようにして、それを見つめる少女の、丸くつややかな肩の白さが印象深い。


ウィキペディアで見られる「Nymph Finding the Head of Orpheus」の画像のアドレスです。
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Nymphs_finding_the_Head_of_Orpheus.jpg


「La Belle Dame Sans Merci(英名 A beautiful woman with no mercy)」

キーツの詩を題材にした作品だそうです。
森で謎の美しい少女に出会い、魅了されてしまう騎士の話。
彼女は、男を破滅させる魔性を持っているのですが、男はそれに抗えない。
森の草地に座る少女と、彼女の傍にひざをつく甲冑姿の騎士。
少女が自分の長い髪を騎士の首にまわし掛けて、引き寄せている瞬間を描いています。

この絵はまじまじ覗き込むと奥深さがありました。
印刷では良さが出しにくい絵のようで、一見、なんだか少女が底意地悪い微笑を浮かべているようですが、肉眼でよく見ると、その透き通った目はかすかに見張られて、むしろ不思議そうに、あどけなく騎士を見つめています。
(いや、こういう女こそおっかないんですが。)

少女は、騎士の首にまわした豊かな髪の毛先を、もうひとたばの自分の髪の毛で巻き、白い指できゅっと締めて、騎士の顔を自分へと引き寄せています。

「君、黒い長い髪で縛られたときの心持ちを知っていますか」

文豪、夏目漱石の小説『こころ』の中で、登場人物である「先生」が、恋の逃れがたい力の恐ろしさを言い表した台詞です。

「カぁッコイイ文だなあ……」
と、つくづくシビレましたが、絵も、まさしくこの台詞のような凄みがありました。


ウィキペディアで見られる「La Belle Dame Sans Merci」の画像のアドレスです。

http://en.wikipedia.org/wiki/File:La_Belle_Dame_Sans_Merci2.jpg


(これは完全ノー根拠の想像ですが、漱石はイギリス留学中に、エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』を観ていて、小説『草枕』にとりいれています。この絵だって、どこかで観ていて、何らかの影響を受けていないとも限らないですよね【絵は1893年作、漱石留学は1900年】。)


ウォーターハウスの展覧会情報は以下のとおりです。

J.W. Waterhouse: The Modern Pre-Raphaelite
27 June— 13 September 2009


美術館のアドレスです。

http://www.royalacademy.org.uk/

以下は美術館の地図のアドレスです。

http://www.royalacademy.org.uk/planyourvisit/

画家ウォーターハウスのウィキペディアの英文解説です。作品の画像が沢山見られます(【注】この展覧会に来ている以外の作品も多く含まれています)。

http://en.wikipedia.org/wiki/John_William_Waterhouse


※余談ですが、この地図にあるBURLINGTON ARCADEの入り口(ロイヤルアカデミー美術館正面入り口から出た場合、すぐのところ)にカラフルなマカロンで有名な『LUDUREE(ラデュレ)』があります。
日本人のお客さんもよく見かけます。
美味しいし、色が可愛いので、女性にさしあげるとポイント高いです。
日もちしないのですが、買った当日食せる状況の誰かへのお土産としては、オススメです。

BURLINGTON ARCADEの『LUDUREE(ラデュレ)』の情報ページです。

http://www.laduree.fr/public_en/maisons/burlington_arcade_accueil.htm

※ウォーターハウスの絵の内容については『J. W. Waterhouse Exhibition Catalogue』(2009年六月 Royal academy of Arts )を参照させていただきました。

posted by Palum. at 23:53| イギリスの美術館 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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