2023年11月07日

チャーリー・ブラウンとコールドプレイが歌う2つの名曲(「Charlie Brown」「Something Just Like This」)

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(『完全版 ピーナッツ全集 6』p. 1962年7月29日発表 チャールズ・M・シュルツ著 谷川俊太郎訳 河出書房新社)(※以下、同全集より画像引用)

 スヌーピーの飼い主、チャーリー・ブラウンは、恋もスポーツも、何をやってもうまくいかない少年。

 それなのに、あきらめが悪くて「でもやっぱり勝ちたいんだ!!」という願いは人一倍強い。

 そんな、「一緒に泣こう」と言いたくなる彼をイメージした名曲がある。

世界的ロックバンド、コールドプレイの「Charlie Brown」(2011)。

Coldplay - Charlie Brown (Official Video)

 男の子も女の子もこの世界で大事なものみんな
 男の子も女の子もわきあがる狂気もみんな
 盛り上がりも盛り下がりもみんな
 部屋がぐるぐる回りだす中で
 思いっきり騒ぎまくろう、暗闇の中で光り輝こう

 ミステリアスな歌詞の中に、チャーリー・ブラウンのように、どんなに頑張っても失敗続きの少年(少女)の、それでもくじけないひたむきなエネルギーが感じられる。

 作曲中、直接チャーリー・ブラウンを示す歌詞はなくなったけれど、どうしてもタイトルは「チャーリー・ブラウン」しか考えられなかったから彼の名前を残したそうだ。(英語版Wikipediaより)

(『ピーナッツ』とコールドプレイ、両方のファンなので、こういう話は本当に嬉しい)

 よかったねチャーリー・ブラウン。こんなに素敵な曲のインスピレーションになれて、ちゃんととても愛されているよ。
(彼とスヌーピーは、心の中の大切な身内なので、本当に「聴かせてあげたい」とすら思う)


 また、ある時のチャーリー・ブラウンは、「ただひとつの望みはヒーローになることだったのに、まぬけなヤギにばかりなってる!」と苛立っているが、彼への答えのような歌「Something Just Like This」(2017)もある。
(アメリカのグループ「チェインスモーカー」作曲、コールドプレイとのコラボ曲)

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全集5巻p.220 1960年5月26日

 「子供のころからスーパーヒーローになりたかったのに、平凡なままだ」と落ち込んでいる人に、愛する人が「どうしてそんなに苦しんでいるの?ヒーローにならなくてもいい。そばにいて、抱きしめられて、キスができる、私にはそんな人が大切」と言ってくれている歌。

(ライブ版動画)
The Chainsmokers & Coldplay - Something Just Like This (Live at the BRITs)

(ライブ中、歌いながらランウェイをフワフワ歩いていたクリス・マーティン〈いつも独特な重力の不思議な歩き方をする〉が客席にストンと落ちるサプライズがある〈もみくちゃの中で観客たちと跳ねながら、レコーディングと同じきれいな声で歌っている〉)

 誰でも、「勝ちたい」「誰かに凄いと思われる何かになりたい」と焦って、頭がきりきりするときことがあると思う。
(「そうでないなら生きている意味がない」くらいに不安になることも)

 そういうとき、漫画の中で、チャーリー・ブラウンのようなキャラクターの気持ちに触れたり、また「彼のような人を大切に思う誰か」の優しい素敵な曲が存在し、たくさんの人に愛されていることを思うと、その頭のきりきりがゆるむ。

 (どちらの曲も、きらめきが見えるような澄んだ音を丁寧に織り上げた演奏の中で、クリスの声が高音になるとき、縮こまっていた脳が「フワッ」と舞い上がる感じがすることがある。「音楽はダイレクトに脳に効く」というが、その力を実感した)

 『ピーナッツ』の作者チャールズ・シュルツさんは 「わたしたちのほとんどが、成功より失敗を多く経験して」いて、「ひとりの幸せな成功者の陰に100人の失敗者」がいると言っている。スヌーピーの50年 世界中が愛したコミック『ピーナッツ』p.211

(創作者としてのシュルツさんは、むしろ100年に1人の成功者といってもいい人だったのに、彼の心はいつもチャーリー・ブラウンと一緒だった)

 本当はたくさんの「スーパーヒーローではない人」がいるのに、ほとんどなのに、まるで四方八方からあおられるみたいに、自分ひとりがみじめに孤立し、絶望的なことのように思ってしまうことがある。

(いまはネットが成功の幻想を売り込んでくるからよけいに)

 やがて「たくさんの普通の人」は自分を「世界にひとりぼっちの失敗者」のように思い込んで、一分一秒でも早く勝たなければいけないと、「勝者ではない自分」を責め、もちろん「ほかの99人」を思いやったり共感したりするひまもなく、「まだなっていない理想の自分」を投影して、「ひとりの成功者」の強さだけを称賛したりするようになる。

 でも、勝つということは、誰かを負かすということでもある。

 チャーリー・ブラウン自身、友達のライナスにフットボールの劇的逆転勝利の試合の話を聞かされた時、むしろ「劇的逆転敗北」をしたチームのほうが「どんな気持ちだったかな」と考えている

相手チームはどんな気持ちだったかな - コピー.jpg

 彼は負けのエキスパートで、だから、つらい思いをした人の気持ちがよくわかる。

 現実社会には「負けて悔しいから、もっと弱いほかの誰かに八つ当たりして憂さ晴らし」というコースもあるが、彼は絶対にそれはしない。
常に負けているからこそ、負ける側の気持ちが、いつでも他人事ならぬ自分事になってしまって、できない。

 だから、いつのまにか、とても優しい人になる。

 物語が進んでくると、そんなチャーリー・ブラウンの優しさを、「すてき」だと思ってくれる女の子たちも現れる。
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全集15巻p.87 1979年7月21日掲載
(ペパーミント・パティとマーシー。彼が入院したとき、心配して病院のそばで見守っている)


 「何をやってもダメ」なことではチャーリー・ブラウンにひけをとらない、我らがのび太と結婚するしずかちゃんに対し、しずかちゃんのパパは「のび太君を選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね」と、彼女の選択を褒めている。

いちばん人間にとってだいじなこと - コピー.jpg

 この二人、ものすごいおっちょこちょいで負け通しなところも似ているが、だからこそとても優しいところも似ている。(本当はその優しさの価値を、ちゃんとわかってくれる人たちがいるところも)

 他人の痛みを自分のことのように感じられることは(負けを知っているからだから、みじめで不安ではあるけれど)、常に勝者であるよりずっと大切なことだ。

 今の時代、本当に心からそう思う。

 「わたしたちのほとんどが、成功より失敗を多く経験して」いて、「ひとりの幸せな成功者の陰に100人の失敗者」がいる。

 なら、その100人は「普通の人」だ。

 その「100人の普通の人」が、成功者の陰で自分の負けを噛みしめ、勝ちを焦る代わりに他人の悲しみを思いやれるなら、そしてそういう「普通の人」の優しさの価値がわかるなら、その人たちの暮らす世界は、暖かくて優しい場所になる。

 歌詞の中の「暗闇の中で光り輝く」という言葉は、「チャーリー・ブラウン」である私たち一人ひとりへの励ましであり、そして、「負け犬の遠吠え」ではなく本当に、「普通の人」だからこそ持てる、互いをわかり合い思いやる気持ちは、この世界にとって大切な、絶対に必要なものなのだ、と教えてくれている気がする。


 (先日、コールドプレイのコンサートに行って、この大好きな2曲を聴けたし、本当に伸びやかで美しかった。『ピーナッツ』ファンとしても、コールドプレイファンとしても大切な「Charlie Brown」がアンコール曲のひとつだったので、感謝をこめて、ご紹介させていただいた)


当ブログ関連記事:

(出典楽曲と本)

(歌詞付動画)
The Chainsmokers & Coldplay - Something Just Like This (Lyric)













(参照)
posted by pawlu at 23:20| おすすめ動画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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