2016年05月31日

「ポーの一族」続篇掲載『月刊フラワーズ7月号』、現在在庫切れ

月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -
月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -

(今回は、ひたすら愚痴と自責です。)
 楽しみにしていたのに、なぜおれは買いに行くのを4日も遅らせてしまったんだろう……。
 別にそこまでせっぱつまった用事があったわけじゃないじゃないか。そもそも4月から発売のことは知っていたじゃないか……。
 28日に時間を見つけて本屋に行けばよかったのに、いや、ファンを自称するならさっさと予約しておけばよかったのに……。
 バカッバカッ、ミノルのバカッおれはほんとにバカな男さ。(『ちびまる子ちゃん』内の脇役キャラミノル風)

ミノルのバカッ(『ちびまる子ちゃん』5巻より).png

リボンマスコットコミックス5巻「みんなでフランス料理を食べにいく」より。まる子一家の隣席にいたデート中の男が、「洋風弁当」なる珍しいメニューを頼んでしまったせいで、まる子に大注目されてしまい、ムードぶち壊しのチョイスをしてしまったことを嘆く一コマ。)

(ミノルのインパクトのあるルックスも手伝い、私の周辺で、このシーンにハマる人が続出、「ミノルのバカッ」フレーズは大流行を通り越して十年越しのロングランヒットを飛ばし、以後、自分の迂闊さに身悶える際の決まり文句として、ごく自然に用いられるようになった。〈なんでだよ〉)

 ……ミノルの説明が長くなってしまいましたが、今、本気でがっかりしています。ひさびさにミノルのことを鮮明に思い出すくらいに。

 前回記事で、萩尾望都さんの『ポーの一族』40年ぶり続篇発表についてご紹介させていただきましたが、その掲載誌「月刊フラワーズ」(七月号)をまんまと買い逃しました。(恥)

 あー、今日(発売日28日)は本屋に寄るには遅くなっちゃったなあ、週明けに大きな書店の近くに行くからそんとき買おう。
 と、デートで「洋風弁当」を頼む以上の見通しの甘さで出遅れてしまった(ことに気づいていなかった)今日5月31日。

 ちょっとモジモジしながら(普段少女漫画雑誌買わないんで)ミノル(誰)は「月刊フラワーズ」を探したのですが、棚に無い、店員さんに聞いても無い。

 しかも、その聞かれたときの店員さん反応がすごく早い。
「ありますか「在庫切れです、再入荷についてはわかりません」みたいな手馴れたお返事。
 もー同じことを散々返答した後、みたいな空気が漂う。

 急激に嫌な予感がして、近場にもう何軒か書店があったので、足を延ばしてみたのですが、同じ感じの反応、駅ナカ本屋さんに至るまで全滅。

 なんでも、発売元の小学館に在庫がもう無い状態だそうです……。

 わらにもすがる思いでAmazonで検索をかけてみたら(自分のブログ記事にリンクはっておいたからそれ使いましたよアハハ〈乾笑〉)新本在庫切れどころか、既に3倍以上のプレミアつきで、古本(というか新品未読品)として売りに出ていました。(通常価格560円で、今売値2000円前後)

 なんかすごく自分が情けないです……本当に好きだったのに、萩尾望都さんと「ポーの一族」の人気をよくわかっていなかった…そしていつもの先送りクセでぐずぐずしている間に、その価値がちゃんとわかっている人々はすみやかに予約してわが物にしていたし、マーケットは動いていた……。

 (冗談抜きで、最近「先送りをやめる方法」みたいなのを模索して本屋さんで関連書籍探したりしていたんですが、それを先送りにして、その場で予約しておけばよかったんじゃんと思うとしみじみと情けない。)

 萩尾さんと山岸涼子さん(※1)との対談掲載や、傑作短編「訪問者」(※2)が付録につくと知った時点で、これは早めに買わなければいけないとは思っていたんですけどね……。
 (※1)山岸涼子……代表作「日出処の天子(若き日の聖徳太子を描いた歴史ファンタジー漫画)」ほか、歴史漫画、バレエ漫画、ホラー漫画等多彩な作品を描く。萩尾さんと同じ「24年組(※3)」の一人。

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス) -
日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス) -

(※2)「訪問者」……1980年発表の短編。不仲な父母の両方を愛しながらも、家庭に違和感と居場所の無さを感じていた少年オスカーが母の死をきっかけに、父と放浪の旅に出る。旅の中で、父はオスカーの出生と妻の死について大きな苦悩を抱えていたことが明らかになってくる。
(オスカーは、萩尾作品の代表作の一つである「トーマの心臓」の主要登場人物で、物語もスピンオフとなっている。)

訪問者 (小学館文庫) -
訪問者 (小学館文庫) -

トーマの心臓 (小学館文庫) -
トーマの心臓 (小学館文庫) -

(※3)「24年組」……1970年代に活躍した昭和24年生まれの女性漫画家たちの総称。お二人のほか、竹宮恵子、大島弓子等、少女漫画に心理描写や歴史性・社会性を盛り込み、革命を起こした人々が集う。(参照「ウィキペディア」)

 なんか今回は本格的に反省しました。もっとフットワークよく生きようと思います。

 そんなわけで残念ながら私が40年ぶりの「ポーの一族」続篇「春の夢」の全貌を知ることができるのは、単行本発売以降になってしまうかもしれません。
(前後編で、後編掲載は冬を予定しているそうですのでもっと後ってことですね〈泣〉)

 無性にくやしいので、せめて以後しばらく、可能な限りの速度で、萩尾作品の傑作についてブログでご紹介させていただこうと思います。(我ながらよくわかんないけど、自分なりの反省の仕方)

 近々、今回付録になっている「訪問者」について、少し書かせていただきますのでよろしければご覧ください。
 読んで下さってありがとうございました。(byミノル〈だから誰〉)

posted by Palum. at 22:51| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月28日

(※ネタバレ)「ポーの一族」(1972年)あらすじご紹介(『ポーの一族』40年ぶりの続篇発表によせて)

お久しぶりです。

今日は少女漫画界の不朽の傑作漫画についてご紹介させていただきます。

萩尾望都作『ポーの一族』

ポーの一族(1) (フラワーコミックス) -
ポーの一族(1) (フラワーコミックス) -
吸血鬼となった少年エドガーと、彼と共に永い時間を生き続ける吸血鬼「ポー」の一族、そして彼らが出会った人々のドラマを描いた作品です。

 詩的な画面と台詞、人生や時代に対する深い洞察が、余情となって心に焼付き、数ある萩尾望都作品のなかでも、いや、古今の漫画のなかでも屈指の名作と言って過言では無いでしょう。

 この「ポーの一族」の続篇が、2016年7月号(5月28日頃発売)で、40年ぶりに発表されました。
(色々な本屋さんで懐かしい「ポーの一族」の単行本があらためて置かれているので目にされた方も多いかと。)

月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -
月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -

 続篇は、第二次大戦の戦火を逃れたエドガーと、彼と共に旅をする友アランが、ドイツ人の少女と出会うという内容だそうです。(紹介記事はコチラ〈マイナビニュースより〉)

 当記事では、エドガーとアランの出会いと、二人の長い旅の始まりを描いた中編「ポーの一族」(※)についてご紹介します。
(※)この作品はエドガーたちを描いた連作短編となっていて、シリーズ名と同じこの中編の他にも「ポーの村」「グレンスミスの日記」「小鳥の巣」等、別のタイトルの作品が存在し、それらを総括して『ポーの一族』と呼ばれています。
 中編「ポーの一族」が一部試し読みできるページはコチラです。
(色々な電子書籍で読めますが、今回は一番長く閲覧できるところを引用させていただきました。)

 以下より、作品の内容について、書かせていただきます。(思い入れがありすぎて、長くなっています……あとネタバレなので、その点あらかじめご了承ください。)


 薔薇の咲くポーの村に暮らす兄妹、エドガーとメリーベルは、ある日、愛する村を離れ、彼らの養父母ポーツネル男爵夫妻と共に、ある海辺の新興都市へとやってくる。

ポーの一族 画像1.png

 その土地の人間たちの中から選び取った者を自分たちと同じ吸血鬼(バンパネラ)とし、彼ら「ポーの一族」に迎え入れるため。

ポーの一族 画像2.png

 町のレストランにあらわれたエドガーたちに、人々は感嘆のため息をもらした。
 美しい家族。まるで一枚の完璧な絵だ!
 ひそかに賛辞をおくる人々の中に、町の医師カスターと彼の教え子、美男のクリフォードがいた。
 彼の目をことにとらえたのは、美しいシーラ夫人。
 食事中に貧血でメリーベルが倒れてしまったことをきっかけに、クリフォードたちと知り合いになるポーツネル一家。

ポーの一族 画像3.png

 エドガーはクリフォードのシーラに対する態度を嫌悪するが、ポーツネル夫妻は、彼を一族に加えることを考えはじめていた。

 一方、エドガーは偶然出会った(外見上は自分と同じ年頃の)少年、アラン・トワイライトを一族に加えたいと思うようになる。

ポーの一族 画像4.png

 アランの通う学校の名を知ったエドガーは、(彼のことは伏せて)ポーツネル男爵に学校に通いたいと頼む。話を聞いていた男爵は、エドガーの姿が窓にうつっていないことに気づいて、強い口調で注意した。
 胸にクイをうち込まれたくなかったら、人間であるふりを忘れてはいけない。
 息があるふり、脈のあるふり、鏡に写るふり、ドアに指をはさまれたら痛がるふり
 それくらいできる。やってみせるよ。
 窓に姿を映したエドガーはそう答えた。 

 一方、町一番の貿易商トワイライト家の一人息子だったアランは、転入早々、自分に親しげに近づいてきても、決して他の同級生たちのように服従しようとしなかったエドガーに苛立ち、手下となっている少年たちを使ってエドガーに嫌がらせを仕掛けるが、それをきっかけとした乱闘騒ぎでエドガーに怪我を負わせてしまう。

 この事件をきっかけに、エドガーがアランと交流を持とうとしているのを知ったポーツネル男爵は彼を厳しく叱責した。
 男爵の威圧的な態度に、エドガーはとげのある声で答えた。
「わかっているよ、一族にくわえるには、成人でなけりゃだめだってことはね。ぼくたちを連れてるおかげで父さまたちは同じ土地に二年続けていられない」
 大人になる前に吸血鬼になった者は、成長しないことをあやしまれ、人間の住む土地に長くいることはできない。
(その暗黙の掟がありながら、14歳と13歳で吸血鬼となって人間の時を止めたエドガーとメリーベルには、それぞれに理由があった。)
 父さまたちの考えは、十分わかっている。
 でもぼくがどんなに孤独か、あなたがたにはわかるまい……!

 永遠に少年のままである孤独に常に苛まれていたエドガーは、同じような悲しみを抱えるであろうメリーベルのためにも、アランを一族に加えることを諦めようとはしなかった。

 そして、アランもまた、尊大さの奥に深い孤独をかかえる少年だった。

 名家ではあるものの、父を早く亡くし、愛する母は病弱、そして、財産目当てに屋敷に居つく父方の伯父夫婦からは、従姉妹との愛の無い結婚を強制されようとしている……。
 知っているのは自分を利用しようとする人間か、こびへつらう人間だけだったアランは、自分と対等な友人になろうとしていたエドガーのことが気にかかるようになっていく。
「あんなやつ、はじめてだ……」

 アランはきっと自分を訪ねてくる。

 人とは異なる回復力を持ち、とうに怪我の治っていたエドガーだったが、療養中と称して学校を休み、アランを待っていた。
 しかし、やって来たのはアランに命じられて様子を探りに来た同級生たちだった。
 彼らを追い帰して、トワイライト家に赴くことにしたエドガー。

 道すがらの森の中で、ふいに背後から聞こえた、弱弱しい妹の声。
 メリーベルが、エドガーを追いかけてきていた。強い日差しに青ざめてふらつく妹を木陰に休ませ、エドガーは、すぐに戻るから動かないようにと、彼女に言い聞かせる。
(メリーベルは不老ではあるが体が弱く、湿気や陽の光など些細な理由で倒れてしまう体質だった。)

 同じころ、伯父一家と激しい口論になって屋敷を飛び出したアランが、エドガーに出くわす。

 アランを連れてメリーベルのところに戻ってきたエドガー、兄の姿を見て一瞬微笑んだメリーベルが彼の腕にくずおれた。
「水を、アラン!」
 貧血なんだ、早く!エドガーの鋭い声にわけもわからず駆けていくアラン。

 二人きりになってから、エドガーは妹の首に口づけ、自分の血をわけ与える。
 目を覚まし、面倒をかけたことを詫びるメリーベルに、エドガーは哀しい目をしてつぶやく。
 「君は僕を許しちゃくれない」
 憎んでも、殺しても良い。メリーベルがこんな呪われた身で生きるようになったのは、自分のせいなのだから……。
 エドガーの苦しげな言葉を制止し、彼を抱きしめるメリーベル。
「兄さんだけよ!いつもわたしのそばにいて、いつもわたしのこと考えてくれるの。ずっと小さなころから、そうよ」
 遠い昔、二人が人間だったころから。

 メリーベルは気づいていた。
 メリーベルの療養のためにしばらく村を離れる。
 吸血鬼だけが住むポーの村を出て、この町に来た理由を、エドガーと養父母はメリーベルにそう教えていた。
 しかし、本当の目的は、新たに人間を吸血鬼の仲間に加えること。
 そしてそれはメリーベルのため。
 新しい仲間の、新しい血。それが、一族で際立って弱いメリーベルには必要だったから。
 兄はこの町の少年の一人から、友達として信頼を得、それを裏切り、人としての生を奪おうとしている。
 でも、それはメリーベルのため、そして、自分と同じに、大人になることができないエドガー自身の孤独のため。
 メリーベルはわかっていた。
「君は……それでいいの……?」
 言葉をしぼりだすエドガーを見つめる大きな瞳から、ただ、一筋の涙が流れた。

 そのとき、水を手に駆け戻ってきたアランが、メリーベルを見て、目を見張った。
 彼女は、幼い頃のアランの婚約者で、たった七歳で事故によって命を落とした少女ロゼッティに生き写しだった。

ポーの一族 画像5.png

 この日を境に、メリーベルに惹かれる一方、エドガーにも心を許していくアラン。

 エドガーとアランの友情に気づいたポーツネル男爵は、先手を打つべく、クリフォード医師へと接近し始める。

 彼の恩師カスター医師の招待に応じ、ディナーへと赴くポーツネル夫妻。(二人ともシーラに対するクリフォードの好意に気づいているが、彼を一族にするために、その気持ちを利用するつもりでいる)

 カスター家に同居していたクリフォードは、準備にいそしむ婚約者のジェイン(カスターの娘)に目もくれず、シーラの到着を待ちわびていたが、偶然、カスターの書斎入口の真向かいにかかる鏡を見ていた彼の目が奇妙な一瞬をとらえた。

 ドアを開けて入ってくるジェイン。
 誰かを招き入れる仕草をするジェインと誰もいない廊下。そして閉じられたドア。
 振り向くと、すぐそこにポーツネル夫妻が立っていた。
 驚いて目を戻した鏡に、何事もなかったように写っている美しいシーラ。

 つつがなく流れる和やかな晩餐のひととき。
 だが、クリフォードはシーラの気を引くことも忘れ、先ほど目にしたはずの光景について考え続けていた。
 鏡に写らなかった……ドアだけが閉じて、鏡に写らなかった……!

 ディナーの間中、押し黙るクリフォードを見て、彼がシーラ夫人の美しさにうわの空になっているのだと誤解する婚約者ジェイン。
 クリフォードは恩師である父への義理立てで自分と婚約しただけで、地味で目立たない私など愛してはいない……。
 肩を震わせるジェイン。

 一方、カスター宅を後にしたシーラは、おどおどと頬をそめてうつむくばかりだった彼女を思い出し、こんなことを夫につぶやいた。
「あのジェインという娘……わたしとても気に入りましたわ」

 一方、クリフォードは、友人から、その夜の彼のジェインに対する態度を叱責されていた。
 それに少しも耳を貸さずに、クリフォードは呟く。
「人間が…… 鏡に写らないとしたらそれはなんだろう?」
「知るか、そりゃバンパネラだ!」
 では人間ではないことになる。まさか。
 自分の考えのバカバカしさに笑うクリフォード。
 激怒して部屋を出ていく友人をよそに、クリフォードはもう一度自分に言い聞かせる。
 錯覚だ……バカバカしい。もう二十年もすれば二十世紀がくるというこの科学時代に……。

 日曜日、アランはエドガーを誘って断崖の砦跡に出かける。
 強い海風に髪を散らしながら、ようやく本心を口にするアラン。
「君と知りあって良かった。」
 エドガーは今までむらがってきた奴らとは違う、何でも話せる友達になってくれそうだ。
 その言葉を耳にして、エドガーの心によぎる重苦しい影。
 このアランを、自分はバンパネラ一族に加えようとしている。
 メリーベルにそうしたように。

 靄混じりの帰路、エドガーは彼の計画を実行する。

 二人きりの淋しい道、言葉を交わすアランの隙を突いて、耳の下に唇を寄せるエドガー。
 異変を感じ、アランは激しくエドガーを突き飛ばした。押さえた耳の下に残る、ただならぬ感触。
 唇をぬぐう指、その指の陰に垣間見える真紅。冷静に笑う青い目が、靄の中で光る。

ポーの一族 画像7.png

「アラン、おどろかないで。なんでもないんだ」
 エドガーがゆっくりと近づいてくる。
 アランのこわばった唇から、とぎれとぎれに言葉がもれた。
「もろもろの…天は神の栄光をあらわし…大空は御手の……わざをしめす……」
 アランに伸びた手が止まる。
 この日、ことばをかの日につたえ、この夜、知識をかの世に送る……語らず、言わずその声聞こえざるに……そのひびきは全土にあまねく……
 凍り付いた時間に響く聖書の言葉。
 靄に遠ざかっていくエドガーの足音。

 正体がばれてしまった。すぐにここを出よう。
 屋敷に戻ってきたエドガーから状況を確認したポーツネル男爵は、この土地を捨てるには及ばないと言い聞かせる。
 近代化が進み、信仰が篤いわけでもなく、バンパネラ伝説を信じない人々、良い土地だ。
 バンパネラにとって真に恐ろしいのは異端を認めない信仰の心。
 聖句や教会や十字架は象徴に過ぎず、それ自体への恐怖は克服することができる。
 疑惑など打ち壊せ!信じさせるな!

 翌朝、学校に姿を現すエドガー。
 声をかけられたたアランは、青ざめたまま、何かを握り締めた手を差し出す。
 エドガーの手に、鎖とともに零れ落ちた、細い十字架。
 一瞬のこわばりをすぐに笑みに変え、くれるの?じゃ、きのうのこと怒っていないんだね、と、エドガーは十字架をしっかりと握りしめた。
 からかってキスをしようとしたけれど、怒らせてしまったかと思っていた。メリーベルも待っているから、今度はうちに遊びにおいでよ。
 エドガーの屈託の無い様子に、アランは戸惑うが、それは母の容体急変の知らせに断ち切られた。
 なんとか持ち直したものの、処置を終えたクリフォードから教えられた事実は過酷なものだった。
 とても心臓が弱っている、次に大きな発作が起きれば……。
 母との別れの日が迫っている。でもこの苦しみに寄り添ってくれる人は、この屋敷のどこにもいない……。

 翌日、伯父夫婦から、母が生きているうちに従姉妹と結婚することを持ちかけられ、アランは声を荒げて拒絶する。
 部屋の外で言い争いを耳にしていた年上の従姉妹マーゴットは、アランに冷ややかに言い放った。
 アランのことは何ともおもっていないが、やさしくしてやってもいい。かわいそうなお金持ちのみなしごになるのだから。
 耐え切れずに飛び出していったアラン、どしゃぶりの中、その足はエドガーたちの住む岬の屋敷へと向かっていた。

 ずぶぬれでやって来たアランを、メリーベルが驚きながら迎え入れた。
 彼女を引き寄せ、アランは静かに問いかけた。
「ぼくがプロポーズしたら怒る?」
 目をみはるメリーベルに、アランは彼女の華奢な両手をにぎりしめてひざまずいた。
 本気だ、約束だけ今してほしい。もっと後、君が大人になったら……。
 「それは……ムリよ……」
 なぜと聞かれても、ただ首を振る、メリーベルの苦しそうな瞳に涙が浮かんでいた。
 アランは立ち上がり、硝子戸に手をかけて、もう一度彼女を見た。
 困らせてごめん、でも君を好きなのは本当だ。好きだ……。
 出て行こうとしたアランに、メリーベルが駆け寄った。
「アラン!わたしたちと一緒に遠くへ行く?」
 ……ときをこえて……遠くへ行く?

ポーの一族 画像8.png

 吹き込む強い風に巻き毛を乱し、アランに問いかけるメリーベル。
 謎めいた問いかけ、だが、投げかけられたその声、そのまなざしがアランの胸に焼付いた。
『ときをこえて』……?
 冷え切った体で屋敷に帰りついたアランは、そのまま倒れ込んでしまう。

 心配ない、ただの風邪です。往診したクリフォードが伯母にそう説明している間、アランは夢の中にいた。
『わたしたちと一緒にときをこえて行く?アラン』
 メリーベルの声、自分をとりまく冷たくわずらわしい人間関係、エドガー、君はバンパネラだ。いつも、いやなことを忘れるために、砦跡の崖から、身を投げ出すようにして見ていた波の渦。
 いこう、いこう、メリーベル。……どこへ行くって?

 目を開くと、枕元にエドガーが立っていた。見舞いに来たという彼のほかに誰も部屋にいない。
 たいしたことはない、と話すアランの喉元に、いつのまにか伸びたエドガーの手。
 薄く微笑む青い瞳に、得体のしれない沈黙。
 開かれた扉の向こうで、黒く尖った悪魔の羽を広げたエドガーが、アランに刃を振り上げた。
 クリフォードは思わず声を上げた。アランの寝室に入ろうとしたとき、自分がそのような光景を目にした気がして。
 実際に目の前にいたのは、落ち着いた様子で自分に挨拶をするエドガーと、ただ横たわっているアラン。
 それでも、クリフォードの体は、エドガーが去ったその部屋で、まだ総毛だっていた。
 部屋に異様な冷気が漂っている。
 「……伝説を信じます?」
 アランの唐突な問いかけが沈黙を破った。
 たとえば、バンパネラは実在したと思います? 
 クリフォードは言葉を失ったが、少し笑って首を横に振った。ただ、その顔色にまだ血の気はもどっていなかった。

「あら!おひさしぶり、ジェイン!」
 帽子屋の前で、シーラがジェインに声をかけた。連れていたメリーベルを紹介し、一緒に店に入ることを誘う。
 まるで引き立て役だと恥ずかしく思うジェインをじっと見つめたシーラが、ふいに言った。
 髪を結いあげて、緑より青があなたには似合うわ。
 何を着たって私ではみっともなくて……ジェインの言葉をシーラが押しとどめた。
 みっともない若い娘なんていやしません。髪は少し古風に結い上げて、でも娘らしく細い流行の、もちろん青いドレスを着て、あなたに似合いそうな青い帽子を持っているので、是非合わせてあげたいわ。目にうかぶでしょう?とても素敵になったあなた。
「母さま……」
 シーラは言葉を切った。青ざめたメリーベルが、ふらつく体を寄せてきていた。
 うちが近いので少しお休みになっては?と提案するジェイン。
 それでは、娘がお世話になっている間に、あの、あなたに似合う青い帽子をとってきます、と、シーラはジェインの呼び止めをふりきって踵を返す。
 親しげな方!ジェインは、シーラの思いがけない温かな態度に驚いていた。

 実は、シーラ達がカスター家の近くにある帽子屋にやってきたのは、ジェインの様子をうかがうためだった。
 クリフォードを愛しているジェインも、一族に加えて村に連れ帰れば良い。そのために彼女の信頼を勝ち得たい。シーラは屋敷へと急いだ。

「ひと雨くるな……」
 浜辺に響くかすかな雷鳴、顔を上げたクリフォードは、屋敷へと向かうシーラに気づいた。
 強くなりかけた海風にドレスをなびかせ、明るくクリフォードに声をかけたシーラ。
 その笑みが、雲間からの一瞬の稲光に消えた。
 悲鳴を上げて激しく怯えるシーラの手を引き、クリフォードは目に入った農家の倉庫で彼女を雨宿りさせることにした。

「雷がこわいんですか」
「ええ……まるで私に向かって走ってきそうで……!」
 小屋の中で、震えながらクリフォードにすがりつくシーラに、まるで、罪人のようなことをおっしゃる、とクリフォードは苦笑いをした。落雷は神の怒りで、罪人はこれに撃たれて命を落とすという言い伝えを思い出しながら。
 気をまぎらわせようと、今日、ジェインに会ったことを話すシーラ。 
 腕の中のシーラの、青ざめた美しさがあらためてクリフォードの心をとらえた。なぜこの人を、一瞬でも魔性だなどとうたがったのか。
 無言で彼女の顔を引き寄せ、クリフォードはシーラに口づけた。
 しかし、次の瞬間、シーラの首筋に指先をあてていたクリフォードの全身に、電流のような衝撃が駆け抜けた。
 脈がない……!
 すべての血脈が死んでいる……これは人間ではない!!
 今もまだ彼に身を寄せているシーラ。
 クリフォードの目の隅に、小屋に置かれた干し草用のフォークが写った。クリフォードはかすかに呟く。
「あなたは現実のものではない……打ち砕かねば……これがわたしのつとめだ」 
 このまぼろし……!
 シーラを払いのけ、クリフォードはフォークを振り上げた。
 切っ先から伝わる手ごたえと共に、激しく吹き込んだ風雨。
 視界を奪われたすきに、シーラの姿が消えていた。

 日が落ち、暗くなった屋敷で打つ雨音に耳をかたむけていたエドガーが、ドアの動くかすかな物音に気付いた。
「とうさま!!」
 扉を開けたエドガーに、深手を負ったシーラが倒れ込んできた。

 夫の手当てをうけながら、朦朧としたまま、シーラは告げた。クリフォードに気づかれたと。
 すぐに町をでようと支度をするポーツネル男爵、今、母さまを動かしたら助からないというエドガーに、今逃げなければ終わりだ!と声を荒げる。
 10万人の市民がここに押し寄せてきたら?吸血鬼を滅ぼそうとする人間たちの群れ。いくどもそういう光景を見てきた、お前も覚えているだろう?
 そのとき、エドガーの顔色が変わった。
 メリーベルは。
「母さま、メリーベルはどこ!?」

 落雷に怯えるメリーベルを抱きしめて落ち着かせているジェイン。ふわりとしたきれいな巻き毛に触れ、あなたもシーラに似て美しい婦人になるのでしょうね、と、つぶやく。
 メリーベルははじめて自分の話をした。
 シーラは自分の本当の母親ではない、メリーベルにそっくりだったという実の母は自分を生んですぐに死んでしまった。
「ジェイン、シーラが好き?」
 シーラは美しい大人の女性。でも、ときが立てば、ジェインも大人になるわ。メリーベルはやわらかく微笑む。

 激しい音を立てて、扉が開け放たれた。
「ジェイン、はなれろ!!」
 すぶぬれのクリフォードが叫んだ。
 一体何が、と彼に駆け寄ったジェインに、クリフォードは告げた。
 シーラを殺した。
 目をみはるジェイン。メリーベルの体がこわばる。
 戸棚から、銀の弾をこめた魔除けの銃を取り出したクリフォード、彼を落ち着かせようとするジェインに、クリフォードは叫ぶ。
 岬の家に住んでいるのは悪魔の一家だ!!ちがうというのなら、これで十字を切ってみろ!
 メリーベルは、投げつけられた十字架のネックレスに短く悲鳴を上げた。
 雷鳴の中、小さな細い十字架が、メリーベルに向かって組み合わされた巨大な刃のように光を放つ。
 なにをしているの、十字架を拾って!
 ジェインの声。メリーベルにはできない。
 壁にすがり、メリーベルは叫んだ。
「エドガー!エドガー!」

 漂うようにゆっくりと崩れ落ちるメリーベルの体。
 閉じ行く瞳の奥で、いくつかの思い出が、波紋のように現れては溶けていく。
 幼かった自分、いつも優しかったエドガー。
 孤児だった自分を最初に育ててくれた老婆。
 木々の間から木漏れ日のように現れた金色の髪の少年。はじめての恋……。
 その体が倒れ落ちる前に、メリーベルの淡く伸べられた細い腕が、全身の輪郭が、風の中の光る砂のように散り、そして、あとかたもなく、消えた。
 壁の前に、流れ落ちた一掴みの灰のような跡、拾われることのなかった十字架。
 銃の硝煙の向こうに、それを見たジェインは、クリフォードに振り向きかけて気をうしなってしまう。

 銃声に駆けつけたカスターと、クリフォードの友人。
 ジェインも見ました!あの一家は悪魔だ!十字架をかかげて、打ち砕け、悪魔を!
 興奮して叫ぶクリフォード。ジェインを介抱する二人に、まず着替えてから、話を聞かせろと言われ、ねがってもない!ジェインも見たんだから、と足早に自分の部屋に戻る。

 あれも神がつくりたもうたものか?なんのために? 
 部屋に戻り、繰り返し光る空に目を向けたクリフォード。
 隣の部屋から小さな物音がした。
「メリーベルの悲鳴が外まで聞こえた。……ぼくは、まにあわなかった……」
 はためくカーテンの向こう、開け放たれた大窓に、エドガーが立っていた。
「これは、あなたがメリーベルを撃った銃だ」
 クリフォードに向けられた銃口。
「悪霊……!消えろ……!お前たちは実在しない!」
 実在している、あなたがたよりはずっと長い時間を。……なにかいいのこすことは?
「消えろ!おまえたちはなんのためにそこにいる!」
 なぜ生きてそこにいるのだ、この悪魔!
 クリフォードの憎悪に満ちた叫びと、ひときわ激しい落雷が、銃声を覆い隠した。

 なぜ生きているのかって?それがわかれば!
 創るものもなく、生み出すものもなく、うつる次の世代にたくす遺産もなく、長いときを、なぜ、こうして生きているのか。
 ……すくなくともぼくは、ああ、すくなくともぼくは……

 同じころ、夫にささえられて馬車に乗り込もうとしていたシーラが、力尽きて塵となって消えた。
 驚愕する御者を一撃して馬車を奪い取り、ポーツネル男爵は馬に激しいむちをくれ、一気に馬車を走らせた。
 急坂を転がるように駆け下りたとき、彼をよけきれずに迫りくるもう一台の馬車を目前にして、ポーツネル男爵は胸の内で愛する者たちに別れを告げた。

 割れた街灯、大破した二台の馬車、生き残った馬のいななきと、駆け付ける人々。
 一人、馬車の下敷きになったのを確かに見た。いや、誰もいない。救助に向かう男たちの声。
 混乱の中、かけつけたエドガーの足元に、ポーツネル男爵の帽子が、転がってきた。
 帽子を拾い上げ、何が起こったかを理解したエドガーから、やがて、嗚咽まじりの笑い声がもれた。
 幕だ、すべてはおわった!ぼくは自由、ぼくはこの世でただひとり、もうメリーベルのために、あの子をまもるために、生きる必要もない。
 生きる必要も、ない……。
 
 「アラン様、お起きになってもよろしいのですか」
 ああ、熱はないんだよ。老執事にそう告げたあと、母の部屋を尋ねていくアラン。ドアの隙間から、伯父の話す声が聞こえてくる。覗き込んだアランは息をのんだ。
 伯父の手はベッドで身を起こした母の肩を抱き、母の手は腰かける叔父の膝に置かれ、互いに寄り添う二人。
 母を「おまえ」と夫のように呼んで、アランに結婚を承諾させてほしい頼む伯父に、彼女は言った。
「いいわよ、話しておくわよ、あなた」
 震える手でドアを閉じるアラン。その物音に伯父が彼を追った。

 階段を駆け上るアランを呼び止めて手をかける伯父、振り向きざまに激しくその手をふりほどいた瞬間、伯父の体がバランスを崩して大きくのけぞって階段を転げ落ちていった。
 飛び出してくる執事たちと伯母たち。
 人殺し!
 繰り返し響く従姉妹の悲鳴に、アランは踵をかえして部屋に飛び込んだ。
 
 追ってきた老執事が、鍵のかかった扉越しに声をかけた。「そこにいらっしゃるんですよ!」
すぐに先生を……。執事の声はほとんど耳に入らなかった。震えながら膝をつき、何度も叫んだ。メリーベル、メリーベル、たすけて……メリーベル!
「メリーベルはもういないよ」
 エドガーが窓辺に訪れていた。

ポーの一族 画像9.png

「メリーベルはどこ?」
「知ってる?きみは人が生まれる前にどこからくるか」
 知らない、そう答えたアランに、エドガーは言った。
「ぼくも知らない、だからメリーベルがどこへいったかわからない」
 ……生まれるまえに……?
 向かい合う二人によぎる、心から愛していた少女の姿。
 ぼくは行くけど…君はどうする?……くるかい?
 開かれた窓。雨は止み、夜の少し強い風が二人の髪をなでる。
 エドガーはアランに手を差し伸べた。
「おいでよ……」
 きみもおいでよ、ひとりではさみしすぎる……。
 その青い目に、もう、あの魔性の光、凍り付いた沈黙はなかった。
 そこにたたえられていたのは、ただ、アランと同じ悲しみ。
 エドガーの瞳に魅入られるように、アランは、エドガーの手をとった。

 伯父の無事を告げながら、老執事がアラン部屋の鍵を開けた。
 だが、そこにもう彼の姿は無く、カーテンを激しく乱す夜風にまじり、どこかから、長く響く少年の笑い声。
 老執事は茫然とつぶやいた。
 風につれていかれた……?

 地球儀に置かれた教師の手。
 来るべき、人が宇宙へと旅立てる未来について話していた教師が授業を終え、少年たちが元気に教室を飛び出してくる。
 お気に入りのレコードや、家族への電話について話していた彼らは、やがて門の前にいる人影に気づいて窓辺に集まってくる。
 転入生かな?どこから来たんだろう?

 彼らの視線の先に、エドガーとアランが立っていた。
                                     (おわり)



 これが、エドガーとアランの出会い、そしてメリーベルの死を描いた中編「ポーの一族」の物語です。
 もっとコンパクトにまとめたかったのですが、130ページに満たない、流れるように展開する中編ながら、様々な人間の疑惑と思惑が交錯して、いざ手を付けてみたら、思いのほかはしょるできませんでした……。
 (おまけに、この時期の萩尾望都作品特有の、独特で印象的な台詞をどうしてもきちんと引用したかったので余計長くなってしまいました〈汗〉。)

 ここでは紹介しきれなかった、後の作品につながる伏線や、登場人物たちの表情や美しさ、漫画ならではのすぐれた間合い表現などがあるので、是非本編をお読みになってみてください。

 これからしばらくは、萩尾さんの名作群についてご紹介させていただきたいと思います。よろしければまたいらしてください。

 読んでくださってありがとうございました。




(補足1)当ブログ、萩尾望都作品ご紹介記事
(ネタバレ)「ポーの一族」(1972年)あらすじご紹介(『ポーの一族』40年ぶりの続篇発表によせて)
(※ネタバレ)漫画、『ポーの一族』「はるかな国の花や小鳥」あらすじご紹介
・(※ネタバレ)漫画、『ポーの一族』「はるかな国の夢や小鳥」見どころご紹介


posted by Palum. at 22:40| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ